第48話

武巳のトーストはマーガリンを塗っただけだったし、コーヒーもブラックだったのに。



簡単なメニューではあるけれど、恵愛のためだけに用意されたと分かるその朝食に、思わず涙が出そうになる。



出来ることなら二度と会いたくない相手だったはずの武巳と、最悪のかたちで再会したというのに――



(……また会いに来てもいいって意味なのかな、あれって)



先程の、ご飯を作りに来てくれという武巳の言葉が頭から離れない。



恵愛の触れて欲しくない話題には深くは突っ込んでもこないし、けれどもきちんと恵愛の身を案じてくれていることは伝わってきた。



不思議な安心感を与えてくれる彼に、恵愛自身がまた会いたいと思ってしまっている。



(迷惑にならないように、あともう少しだけなら……いいわよね?)



またどうしても家に帰りたくない日が来た時は、もうパパ活なんかやめて、武巳に栄養のある食事を作りに来てあげよう、と。



恵愛は少し冷めかけのトーストをかじりながら、そんなことを考えた。

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