第45話

「へぇ。よし、じゃあ……」



意地悪げな笑みを浮かべた武巳が、トーストを一口かじる。



サクッと小気味のいい美味しそうな音がして、



「今回泊めた分の礼、何をして返してもらうか決めた」



「えっ」



まだベッドの上で座っている恵愛は、慌てて姿勢を正す。



昨夜は求められなかったから、てっきり無償で泊めてくれたのだと思っていたのに。



やはり、武巳も所詮はその辺の男と何ら変わりな――



「もしまたどうしても家に帰りたくないって日があったら、俺の飯を作りに来てくれ」



「……はい?」



「そうすれば、その時は泊めてやる。まぁ、未成年だし連泊はダメだけど」



「……」



「援交するよりは安全だと思うけどな」



ズズズッとコーヒーをすすった武巳が、恵愛を鋭い目つきで見据える。



……そうだ。



よく考えてみれば、武巳にはパパとの待ち合わせ現場を見られた挙句、その邪魔をされたのだ。



恵愛の行動を“援交”と呼び、明らかに良く思っていないであろう彼に、昨夜のことを問い詰められたりしたら……



自分の継父のことなども、全て白状しなければならない。



家庭の事情を人に知られるのは、どうしても嫌なのに。

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