第43話

しばらくしてから衣擦れの音は止み、



「すー……」



武巳の、静かな寝息が聞こえ始めた。



(ちょっと! こんな魅惑的なダイナマイトボディーの持ち主がすぐ隣にいて、ぐーすか眠れるってどんな神経してるのよ!?)



恵愛は信じられない気持ちになって、上半身を少しだけ起こす。



暗闇に目が慣れてきて、武巳が寝ている寝袋のシルエットがなんとなく分かるようになってきた頃、



「……み、く……」



苦しそうな、彼の声が聞こえてきた。



「す、きだ……美紅……俺と……」



ほとんどうなされている状態に近い彼の寝言は、今にも泣き出しそうなほどに悲しい声で、



(この人も、右京くんと同じ……)



恵愛に手を出してこないのは、彼が今もまだ美紅を深く愛しているからなのだと痛感した。



恵愛の胸ではなく、きちんと目を見て話してくれる男性は恵愛にとっては貴重な存在で、理想の男性なのに。



そういう男性は必ずと言っていいほど、美紅を心から愛している。



……相原だって、そうだ。



同じ学校に通っていた時、右京と共にそういう目で見てこない男子の部類に入っていたが、彼も結局は美紅に夢中だった。



どうして美紅あの子ばかりが、とは思うものの、



(私も、美紅ちゃんのことは大好き)



羨ましくは思えても、憎たらしくなんて思えなくて。



(どうせなら、美紅ちゃんになりたかったな)



そんなどうしようもない願望を抱きながら、また零れそうになる涙を堪えて、暗闇の中、静かに目を閉じた。

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