第38話

それから武巳は恵愛を連れて電車に乗って、自宅のアパートへと案内した。



お世辞にも綺麗とは言えない古い建物を見て、



「へぇー。イケメンでもこんなところに住んだりするのねー」



恵愛は素直な感想を述べた。



「顔は関係ない。つーか、見習い美容師の身分で高級マンションなんか住めるかっての」



武巳はムッとしながら玄関の鍵と扉を開け、



「文句があるならベランダに寝袋だけで寝かせるぞ」



恵愛を室内へと誘導する。



改装されているのか、内装は外装ほど汚くはなく、



「へぇー。意外ときちんとしてるのね」



人を招くつもりなんてなかったとは思えないほどに、部屋の中は片付いていた。



手を洗うために借りた洗面所も、トイレや風呂も、水周りはとても清潔に保たれている。



あと、問題はキッチンだが、



「晩飯、買い出ししてなかったから何もないけど、そうめんでいいよな?」



確かに整理整頓はされて綺麗なのだが、驚くほどに物がなかった。



材料云々の前に、多分調理器具があまり揃っていない。



「えっ……もう夏はとっくに過ぎたのに、そうめん!?」



これには流石の恵愛もびっくり。



「俺は年中そうめんで生きてんだよ。文句があるなら食うな!」



武巳に怒られて、恵愛は慌てて首を横に振った。

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