第37話

男の姿が人混みに紛れて完全に見えなくなってから、



「さて。川上さんもそろそろ帰れ。女子高生がこんな時間に外なんかうろつくな」



武巳はやっと恵愛の手を離した。



「嫌よ! 帰りたくない!」



恵愛は慌てて首を横に振る。



今更、あの継父の待ち構える家になんて帰りたくはない。



「じゃあ、俺が家まで送ってやるから」



「だから、あの家が嫌なんだってば!」



目に涙を浮かべ、必死に訴える恵愛に、武巳は何やらただならぬ事情があるのだと察し、



「……分かった。じゃあ、とりあえず俺の部屋に来るか?」



まぁ普通は断るよなー、と軽く考えながら提案して、



「行く! 一晩でいいから泊めて!」



「へ……!?」



恵愛からのまさかの二つ返事に驚いて、変な声を上げた。



「お礼は体で払うわ!」



自信満々で自分の胸に手を当てる恵愛を、



「うるせー。ガキの裸なんて興味ねぇよ」



武巳は鼻で笑って適当にかわした。



「私より年下の美紅ちゃんのことは女として見てるクセに?」



恵愛はムッと唇を尖らせて反論し、



「……マジでうるさいな、このクソガキ」



図星なだけに、武巳は悪態をつくことしか出来なかった。

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