第36話

「援交ですか?」



恵愛の手首をぐっと掴んで自分の後ろへと彼女を隠した武巳は、サラリーマン風の男を鋭く睨みつけた。



「な、何だ君は。いきなり失礼じゃないか。君には関係ないだろ」



背の高い武巳に見下ろされて、男はどもりながらも一応は睨み返す。



しかし、武巳はまだ恵愛を背中に隠したまま。



「この子、俺の知り合いなんで。援交する気なら放っとけないかなって」



「援交だなんて人聞きが悪い!」



「パパ活って言いたいんですか? こんな暗い時間に女子高生連れて、本当にお茶か食事だけのつもりなんですか?」



「……っ」



「ちょっと! 勝手に割り込んできて何なのよ! 私の今夜のご飯と寝床がかかってるのに!」



男を追い払おうとする武巳の服の裾を、恵愛が慌てて掴んだ。



そんな恵愛を振り返った武巳は、彼女を冷たい目で見下ろしながら、



「……家出?」



いぶかしむような声を出す。



「こんな訳ありの家出少女なんか匿って家族に捜索願でも出されたら、あなた警察に何て説明出来ますか?」



再び男へと向き直った武巳は、そんな質問をぶつけながら男へと凄んでみせ、



「もういい!」



男は武巳と恵愛のことを一度鋭く睨み付けてから、スーツのジャケットをひるがえしてその場を立ち去った。

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