第25話

右京の機嫌を損ねてしまわないように、ただひたすら恵愛から愛を囁くという日々を送り続けていたある日。



恵愛は、最愛の右京の微妙な変化に気付く。



それは、お互いに三年生へと進級して間もなくのこと。



右京の左手に、あれほど大切に身に付けていたはずのミサンガが付けられていなかったのだ。



彼のミサンガに対する執着振りからして、自分の意思で外したとは考えにくい。



随分と前からボロボロだったし、きっとついにミサンガとしての天寿を全うしてしまったのだろう。



落ち込んでいるかと思いきや、



「……」



口数が少ないのはいつものことなのに、表情はいつもよりも柔らかく見えて。



「右京くん? 何かいいことあったの?」



いつも通りに恵愛のベッドで行為を始めようとしていた時、あまりにも気になったので思わず訊ねてしまった。



「あ……いや、別に」



「いつも大事に付けてたミサンガは?」



この話題に触れると不機嫌になってしまうかと思ったが、



「あぁ、まぁ……ついに切れた。ボロボロだったしな」



思いのほか、彼の機嫌は変わらなかった。



それどころか……



「右京くん、熱あるの? 顔赤くない?」



彼が頬を染めているところなど初めて見た恵愛は、なんとも言えない胸騒ぎを覚える。

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