第23話

右京が自分のことをとても大事にしてくれていると自覚のあった恵愛は、すぐに否定してくれるだろうと自信満々で訊ねたが、



「……」



彼は恵愛から目を逸らして黙り込んでしまい、何も答えてはくれなかった。



――彼の心は、今もまだ恵愛以外の誰かに囚われている。



そう直感した恵愛は、



「そんなボロボロ、どうせ右京くんには似合ってないんだから、捨てちゃえばいいのに」



つい、そんな本音を零してしまい、



「!」



恵愛の制服のブラウスに手をかけていた右京は、目の前の彼女を鋭く睨みつけた。



まだ第二ボタンまでしか外していなかったが、そこに彼女のブレザーをそっとかけて隠した右京は、



「……悪い。今日はもう、そういうことが出来る気分じゃない」



なるべく怒りを抑えた低い声でぼそりと言い置くと、床に置かれた自分の通学鞄を掴んで部屋を出る。



「あっ、待って、右京くん!」



恵愛は、かけられたブレザーを跳ね除ける勢いでベッドから体を起こし、



――プチンッ……!



「あっ!」



まだ外されていなかった第三ボタンが弾けるようにちぎれ飛んで、玄関を出ていく気配のした右京を追いかけることが出来なかった。

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