第13話

三学期の初日に『右京に再度告白をするために、他校への編入をする』という目標を掲げた恵愛は、自分でも驚くほどの行動力を持っていたようで。



二年生へと進級すると同時に、今まで通っていた檸檬れもん高から電車で一駅分のところにある私立の高校へと編入した。



そして、始業式を終えてすぐ、檸檬高の校門前で右京を待ち伏せしていた恵愛は、



「市川くん。私、あなたのために本当に他校へ編入したわよ」



右京の姿を見つけてすぐに、檸檬高のものではない、今日から恵愛が通うことになった高校の制服のスカートを摘んで見せつける。



「……みたいだな」



手にしていた通学鞄を、ダルそうに肩に担ぎ直した右京は小さく溜息をついた。



その目は恵愛からずっと逸らされたままで、全くこちらを見てはくれない。



けれど、



「今、付き合ってる人はいるの?」



「……いない」



恵愛の質問には、素直に受け答えしてくれる。



「私、本当に市川くんのことが好きだから学校まで変えたの。私と付き合ってください」



「……分かった」



小さく吐き出した溜息と共に聞こえた返事に、



「嬉しい!」



とにかく震えるほどの喜びを感じた恵愛には、彼がとても悲しそうな目をしているとか、そんなことを気にする余裕など全くなくて。

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