第12話
真面目で誠実で、それでいて優しくて……
「失くしたり壊したりすると妹が泣くから、早めに保健室行くとか何とかして返してくれよ」
彼にはおよそ似つかわしくないマスコットを大切に鞄に付けている彼は、家でもきっと最高のお兄ちゃんなのだろう。
(私、市川くんのこと……好きなのかもしれない)
自分の気持ちに気が付いた恵愛の行動は、とても早かった。
保健室の養護教諭にボタンを縫い直してもらい、右京へと安全ピンを返した時、
「市川くんのこと好きになっちゃった。私と付き合ってくれない?」
安全ピンを受け取るために差し出された右京の手を両手でぎゅっと握り締めて告白した。
優しい彼のことだから、断るにしても恵愛が傷付かない言い方をしてくれると思っていた。
しかし、彼の返事は、
「俺は……別れた時に面倒だから、同じ学校のヤツとは付き合わないことにしてる」
いつか必ず別れるということを前提にしている上に、相手のことを好きかどうかよりも通っている学校だけで判断するという冷たいもので。
「じゃあ……もし私が違う学校に編入して、改めて市川くんに告白した時は、付き合ってくれるの?」
けれど、恵愛は負けなかった。
「……その時に、俺に彼女がいなければ」
一瞬だけ、右京の目が悲しそうに揺れて見えた気がしたが、
「分かったわ」
恵愛は新たな決意を胸に、右京の手から両手を離した。
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