第11話
「何か飛んできたから、返す。あと、とりあえずこれで留めておけば?」
恵愛のすぐ目の前に右京がやってきて、机の端に何かがそっと置かれる。
それは、弾け飛んだボタンのうちの一つと、安全ピンが三つ。
よりにもよって右京のところにもボタンが飛んだのだということが何よりも恥ずかしかったのだが、
「なんで、安全ピンなんて……」
彼が何故そんなものを持っていたのかが不思議で。
世間一般の男子高校生は、普段から安全ピンなど持ち歩いてはいないはずだ。
「……小学生の妹が、俺にマスコットを作ってくれたんだけど……」
右京は恥ずかしそうに頬を赤らめ、少し離れた場所にある机の横の鞄を指差す。
そこには確かに、お世辞にも上手とは言えない不格好な猫のようなマスコットが付いているのが見えた。
「下手くそすぎて糸がほつれてきたから直してくれって妹に頼んだら、安全ピン三つで留めた状態で返ってきた」
「えっ!? そんな大事な安全ピン、使っていいの!?」
「放っておくと中から綿が出てくるから、なるべく早めに返して欲しい」
真顔でそう告げた右京は、恵愛の胸元には一瞬たりとも視線をずらさない。
ただ真っ直ぐに、恵愛の目だけを見て話してくれている。
(あぁ、やっぱり……)
右京だけは、やはり他の男とは何かが違う。
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