第91話

「いや、あの……俺は出来ることなら行きたくないんだけど」



美紅の言葉に驚いた右京は、無意識に美紅を抱く手に力をこめる。



「右京くんはこのままにしておいても、モヤモヤしない?」



美紅に真っ直ぐに目を覗き込まれて、



「……」



右京は言葉に詰まった。



川上に対して負い目のような感情も、もちろんあるにはあるのだが……



川上のことを全く信用していない右京は、彼女の頼みを断ったことにより、その腹いせに美紅が酷い目にあわされないかどうか、そちらの方が心配になる。



彼女の要求を呑む代わりに、もう二度と美紅を悲しませないと約束をしてくれるのなら、あるいは――



そこまで考えた時、



「右京くんが私のことを凄く大切に想ってくれてるのは十分伝わってるし、知ってるよ」



美紅の両腕が右京の背中に回されて、弱い力で抱き締め返された。



「だから、右京くんが先輩とデートしても、裏切られたなんて思わないよ」



「そこは、なんて言うか……どうしても行って欲しくないって駄々をこねてくれた方が凄く嬉しかったな」



右京がねながらぼそりと呟くと、



「行って欲しくはないよ。でも、それ以上に右京くんのこと信じてるもん」



美紅が、先程よりも強めの力でぎゅっと右京を抱き締めてきて。



「……少し、考えてみる」



どうするのが一番いいのか。



腕の中の美紅のぬくもりをしっかりと感じながら、右京は川上とのけじめの付け方を真剣に考えた。

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