第90話
美紅の涙を見た瞬間、
「美紅」
左腕だけで彼女を抱き寄せていた右京が、今度は両腕で思い切り強く抱き締めた。
「大丈夫だ。絶対に、そんなことはしないから」
「右京、くん……」
まだぽろぽろと涙を流す美紅に、右京は真っ直ぐな眼差しを向けて優しく微笑む。
「ちゃんとはっきりと断るから。な? だから、もう泣かないでくれ」
美紅の涙を指でそっとすくうが、それでも彼女のそれは止まらなくて。
「……ダメだよ、それじゃあ」
美紅は涙の粒を飛ばす勢いで、ふるふると首を横に振る。
「今までと変わらないままだよ」
「美紅を泣かせてまで変えたいなんて思ってない」
涙で濡れて頬に張り付いた美紅の髪を指先で優しくかき上げた右京は、愛おしそうな目で美紅の瞳を見下ろした。
「美紅にこんなに可愛いヤキモチ焼かれて、他の女の相手してる余裕なんか全くない」
そして、本当に余裕がなさそうな動きで、素早く彼女の唇を奪う。
「……!」
「俺が愛しているのも、一緒にいろんなところに出かけたいって思えるのも、美紅だけだ」
「……右京くんのことは、本当に凄く信じてるよ」
美紅が、赤く染まった顔を隠すようにして右京の胸に顔を埋める。
「だから……行ってあげて。先輩が、きちんと前に進めるように」
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