第89話
「いいよ。ありがとう」
ベッドを背もたれ代わりにしてラグの上に二人並んで座る。
そして右京は湯のみの中のほうじ茶を一口飲んでホッと息を吐き出すと、それを目の前のテーブルに置いて、
「……美紅は、俺が川上と二人で出かけるの、嫌じゃないのか?」
すぐ隣に座っている美紅を、ぐいっと強めに抱き寄せた。
「それは、私が決めていいことじゃないから――」
悲しそうに右京から目を逸らす美紅の言葉を、
「いいか悪いかなんて聞いてない。美紅の本音が聞きたい」
右京が無理矢理に遮った。
美紅を抱く手に自然と力がこもって、彼女の体がびくっと強ばる。
「……私は川上先輩のことは好きだし、ずっと仲良くしたいって思ってるけど、右京くんが先輩に対して気まずそうにしてるのも、先輩の辛そうな顔を見てるのも、どっちも辛い」
それは右京の過去の行いが招いたものなので、
「……」
右京は何も返す言葉が出てこなくて。
「二人でお出かけして、それでわだかまりがなくなるのなら、そうして欲しいとも思う、けど……」
段々と美紅の声が涙声になっていって、
「……でも、右京くんと先輩が二人きりでデートしてるところを想像するのだけでも、凄く辛い……」
ついには美紅の両目から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。
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