第88話

美紅の自宅マンション前に到着した右京が、



『着いた』



と美紅へとメッセージを送ると、



「右京くん! こんなとこ来てる場合じゃなくて、ちゃんと勉強しなきゃ――」



部屋着姿の美紅が、正面玄関の自動ドアから慌てて飛び出してきた。



「それどころじゃない。集中出来ない」



右京はそんな彼女を両腕でしっかりと抱き止めて、思い切り抱き締める。



「う、右京くん!」



他の住人が見ているかもしれない、と美紅は慌てたが、



「もう限界なんだ、美紅……」



彼の切ない声を聞いて、何も言えなくなる。



「……ちょっとだけ、上がっていく?」



どうしても突き放せる雰囲気ではないのでそう訊ねると、



「うん」



右京に更にぎゅうっと強く抱き締められた。



こんなに弱っている彼は珍しい。



原因は多分、自分と川上にある。



それが分かるから、



「あの……うち、今ほうじ茶しかないんだけど……」



右京を自室に招いて、温かいほうじ茶をふるまうことにした。



彼のような美味しい紅茶を淹れられるにはまだ程遠い、修行中の身だから。

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