第86話

「……何を企んでる?」



右京の警戒心たっぷりの声を聞き、



「一日だけ、私とデートして欲しいの。最後の思い出に」



川上はにっこりと楽しそうに微笑む。



「は……? そんなの絶対にするわけないだろ。美紅に勘違いされても困るし、悲しませるのが目に見えてるのに」



右京は不快そうに眉間に皺を刻み、険しい表情をしながら川上の方を鋭く睨みつけた。



「もちろん、美紅ちゃんには私の方からもちゃんと話すわ。最後の思い出作りさえさせてくれれば、もう右京くんに近付かないって約束するから」



肩にかけた通学鞄の取っ手の位置を直しつつ、相変わらずニコニコと楽しそうに微笑んでいる川上に、



「もう一度だけ言う。右京くんって呼ぶな。デートも、美紅が許したとしても俺がしたくないから行かない」



今度こそ曖昧あいまいにしてはいけないと、右京ははっきりと拒絶の意を示した。



「だから、美紅にも余計なことは何も言うな」



「……あら。ごめんなさい。もう美紅ちゃんにはメッセージで軽く説明しちゃった後なのよね」



クスッと微笑んだ川上は、制服のブレザーのポケットから取り出したスマホの画面を右京の方へと向ける。



そこには、既に『既読』のマークのついた送信済みのメッセージが表示されていて――

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