第83話

それに対して川上がどう思ったのかは分からないが、



「私もね、高一の頃はあなたや美紅ちゃんと同じくらいの大きさだったのよ、この胸」



彼女は自分のパンパンに張ったトップスの胸元に右手を当てて、自嘲にも見える笑みを浮かべた。



「それが今じゃ、ボタンで留めるタイプの服は極力避けないと大変なことになっちゃうから。ホント、邪魔だわ」



「はぁ。私も間宮も羨ましい限りですけど」



「……市川くんには通用しなかったから。あっても意味がないの」



「……」



本当に、この人はそんなにも右京のことが好きなのかと思うと同時に、天野は気まずくて逃げ出したい気持ちになる。



……まだケーキを完食していないので、絶対に逃げ出さないが。



「私には興味なくても、美紅ちゃんの成長ぶりには気付いてるはずだから、密かに喜んでるはずよ。あのむっつりスケベ」



「はぁ。右京先輩が、むっつりスケベですか……」



不能説があったり、むっつりスケベ説もあったり。



どれが本当なのかは、きっと美紅にしか分からないのだろうが、



(まぁ、間宮が苦労することに変わりはないか)



美紅が右京の重すぎる愛情表現を一身に受けているであろうことは想像にかたくなく。



所詮はただのギャラリーでしかない天野は、



「なんていうか……二人が不幸そうな顔をしない限りは放っておこうかと思ってます」



友の幸せを静かに見守っていようと思うのだった。

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