第22話

美紅のクラスはくじ引きの結果、出演の順番は一番最初。



美紅が演じるのは、現代版風にシナリオを書き換えた『白雪姫』。



白雪姫役はもちろん美紅で、隣国の王子様役は天野。



そしてシナリオを書き換えたとはいえ、当然、眠る白雪姫を王子様がキスで起こすというシーンもあるわけで――



眠っている美紅の唇に、イケメン王子に扮した天野が自らのそれを重ねた瞬間、会場内は黄色い悲鳴に包まれ、



「――!」



条件反射的に舞台に乗り込もうと立ち上がりかけた右京を、彼の両脇に待機していた相原と村田が取り押さえて引き止めた。



舞台上の二人は実際には唇同士のキスを交わしてはおらず、天野が美紅の唇の横に口付けただけなのだが。



絶妙に計算された角度と、冷静さを失っている右京の目にはそれがただの演技には見えなくて。



「(離せ、お前ら!)」



「(落ち着け、いっちー!)」



「(お前らしくないぞ!)」



小声ながらも暴れる右京を、相原と村田が必死に押さえ続ける。



「(みくたんが主役を頑張ってる舞台を台無しにしたいのか!)」



その相原の一言で、



「……!」



右京は一瞬だけびくっと体を強ばらせると、浮かしかけていた腰を静かに下ろし、大人しくなった。

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