第23話

しかし、だからと言って右京の気分が落ち着いたわけではない。



美紅のクラスの演劇が終了し、次のクラスの出し物のための準備の時間中、観客たちには束の間の休憩時間が与えられる。



その間に美紅たちはステージを片付けつつ、自分たちの観覧席へと移動するのだが、



「美紅。今、ちょっといいか」



自分の席に向かおうとしていた美紅の腕を、右京が強めに掴んで引き止めた。



その声は、今まで美紅には一度も向けられたことのなかった不機嫌そうなもので。



美紅の隣にいた天野は、二人の間に割り込もうとしたが、右京があまりにも不機嫌そうなので声をかけることが出来ず、とりあえず右京が座っていたはずの方向をちらりと横目で確認。



そこには、右京を引き止めることに失敗した相原と村田がいて、両手を合わせて頭を下げる動作をしてくる。



「……つかえねー」



思わず、そんな台詞と溜息が一緒に漏れ出た。



結局、誰も右京を止めることは出来ず、彼は美紅の手を引いたまま体育館を出て、教室のある棟へと移動。



この日は防犯の観点から全ての教室が施錠されているので、いつかの時のように適当な教室に入ることが出来ず、右京は人通りのなさそうな廊下へと美紅を連れ込んだ。



その間、彼はずっと無言のまま。



やっと口を開いたと思った時、



「美紅」



彼にしては珍しく、美紅を無理矢理廊下の壁へと押さえ付けた。

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