第20話

しかし、右京を怖いだなんて微塵も思っていない天野は、相変わらずニヤニヤ。



「へぇー。先輩って案外、自分に自信がないんですね?」



「どういう意味だ」



図星をつかれた右京は、ますます表情を険しくする。



「もし私の方がキスが上手かったら、間宮が私の方にハマるかもしれないですもんね?」



「ちょっと、天ちゃんっ!」



空気の悪さに耐えきれなくなった美紅が慌てて天野を制止しようとして、



「へぇ? そんなに自信があるなら試してみろよ」



右京が椅子に座った姿勢のまま、美紅の腰に手を回してぐっと抱き寄せる。



「でも分かってるとは思うけど、美紅が嫌がるようなことだけは絶対にするなよ」



そして、彼女の髪を大切そうにふわりと優しく撫でて、



「美紅。また後で来るからな」



とても愛おしそうで名残惜しそうな優しい笑みを美紅へと向けて立ち上がると、そのまま教室を出て行ってしまった。



残された者たちはというと、



「……っ」



美紅は真っ赤に染まった顔を恥ずかしそうに俯けて動けなくなり、



「ダメだ。右京先輩にだけは勝てる気がせん」



美紅を大切に思っているのが目に見えて分かる右京の態度に、天野は完敗を悟り、



「何か、今……イケメン同士の戦いに見えてドキドキした。うちの劇のシナリオに盛り込む!?」



このクラスの演劇の脚本担当である女子生徒が、慌ててメモ帳を取り出した。



文化祭準備は、まだまだ始まったばかり。



さてさて、どうなることやら――

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