第19話

その瞬間、右京の体がピクッと反応する。



「……相手役の男は誰なんだ?」



その右京の声と眼差しがあまりにも冷えきっていたので、それまで騒がしかった教室内が一瞬で静まり返った。



その場にいた全員が、恐る恐る右京の方を盗み見てみると、彼は不機嫌度マックスの険しい表情をしていて。



どこのどいつが、美紅の相手なのか。



そう言いたげな目で右京がぐるりと周囲を見渡したので、目が合いそうになった者から順番にサッと下を向き、大慌てで視線を逸らす。



ピリピリと張り詰めた空気の中、



「あの、右京くん……」



美紅がおずおずと彼を呼んだ。



「天ちゃんなの。私の相手の男の子役」



「……は?」



間抜けな声を上げた右京は、相変わらずニヤニヤと感じの悪い笑みを浮かべてこちらを見ている天野の方を見る。



「先輩のせいで、うちのクラスの男子たちが間宮の相手役やるの怖がっちゃって。あと単純に、私が一番イケメン役が似合うので」



訊ねてもいないのに、天野は得意げにすらすらと説明をした。



「……そうか」



確かに天野なら、男装すればその辺の男子生徒よりもイケメンに仕上がりそうだ。



右京は安堵の溜息をつきつつ、



「いくら女同士でも、美紅に本当にキスしたら絶対に許さないからな」



天野を思い切り鋭く睨みつけた。

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