赤いピアス
第37話
蹲ると見た夢の回想が脳裏を駆け巡っていく。
いつぶりだろう、こんな夢をみたのは。
息がし辛くて、酸素がちゃんとに取り込めているのか分からない。
目指し時計を見ると、どうやらアラームよりも1時間も前に起きてしまったらしい。
「……お風呂入ろう」
汗で濡れた下着が気持ち悪い。
立とうとすると足腰に上手く力が入らず、よろめく身体を叱咤しながら、水分補給をするためにキッチンへと向かった。
浴室で髪をまとめてシャワーキャップを付けると、シャワーを浴びて直ぐに済ませる。
そのまま制服に着替えて、朝食を摂りにレストランへ向かった。
いつもよりもぼんやりしながらも食べていると、悠貴から電話がかかって来て空間の隅に寄ってから出た。
「もしもし」
「俺だ。悪いが、今から出て来られるか?」
うん。オレオレ詐欺だね。
──じゃくて。悠貴からの電話は珍しい。
それにいきなり謝られたから違和感を感じる。
なにか緊急事態?
まさか、誰か襲われたのかな。
「どうかしたの?」
「気の夜に淳平が襲撃されたらしい」
「淳平が……」
「緊急で病院に運ばれたらしくて、一緒にいた奴に今その話しを聞いたんだ」
えっ、病院に!?
「病院は✗✗総合病院だ。確か、知り合いがいたよな?」
「うん」
「面会は午後かららしいが、今から来てくれ」
「分かった。入口……いや、駐車場で待ってて。合流してから入ろう」
運ばれたのが近くの病院で良かった。
私は愁兄に連絡を入れると直ぐに食器を片付けて部屋に戻った。
バイクを飛ばして病院へ急ぎ、病院の駐車場に来ると3人の姿を見つける。
「美夜ちゃん! 淳平大丈夫かな。病院事になるなんて久しぶりだよ!」
「前にもあるの?」
「先代の時にな。それより、面会謝絶はどうにか出来ねぇか?」
「どうにかするよ。
揃って中に入ると、受け付けの人に内科に佐々木さんがいるか聞いてみた。
運良く会議が終わった直後みたいで、こっちまで来てくれるそうだ。
きっと、淳平たちが運ばれたの時も勤務中で、対応してくれたのだろう。
暫くすると天然パーマの白衣を来た男性が階段から下りて来た。
私を見つけると無言で近寄ってくる。
「よぉ、白雪。用件は深夜に運ばれて来た奴等だな?」
やっぱり佐々木さんがいてくれて良かった。
話が早くて助かるよ。
「うん、多分そう。一人が立花淳平って言うんだけど」
「やっぱりな。本人たちも『神鬼』だっつってたから、まとめて病室に放り込んでる」
そうだったんだ。
佐々木さんそれなりに偉い地位にいるから、対応も良いね。
面会するのに一つの部屋で済むのは助かる。
「容態は?」
「そんなに酷くねぇよ。まぁ見た方が安心するだろ。来い」
「ありがとう」
部屋に案内してくれるらしくて背を向けると、「あぁ」と言って振り返った。
「後ろのコイツ等は仲間か?」
「うん。副と幹部」
「ふぅん」
じっとそれぞれを見つめた後に佐々木さんはボソリとつぶやく。
「ちっと幼ぇ顔つきだな」
それはまぁ、褒め言葉には聞こえなくて、みんなの表情が一気に険しくなった。
“幼い”はあまり嬉しい言葉ではないのだろう。特にプライドの高い悠貴と陽光にとっては尚更だ。
不貞腐れてるのがありありと伺えて、苦笑いを溢す。
そんな佐々木さんはお父さんの学生の頃からの友達だ。──つまり、そう云うことだ。
あまり昔の話を本人はしないが、お父さんが家族の主治医を佐々木さんに一任しているだけあって、本当に頼れる人だと思う。
医者で、医院長の家系で、人柄も悪くない。
同居人の美容師をしている男性が気を使っているから身なりや外見も良いし、性格の違うお父さんや秀一さんとも関係は良好だ。
親世代の大人に、私たちみたいな学生はまだまだ幼く見えて当たり前とも思うけど、悠貴にはどうも地雷に近い言葉だったみたいだ。
雰囲気がもう、不機嫌オーラを垂れ流してる。
もしかしたら勘付いてるのかな、佐々木さんが元暴走族の一人だって。
しばらく歩くと三階の北棟にある一室に通された。
朝から騒々しい一室のスライド式の扉をノックもせずに開けると、佐々木さんが急に現れたことに騒がしい声が鎮まる。
「朝からうっせぇんだよ。ちっとは周り考えろ。担当の看護師男性にすっぞ」
「すみませんしたっ!」
「静かにするから、変えないで!!」
はぁ、やっぱり男の子なんだなぁ。
漏れてくる会話に私は呆れて溜め息をこぼす。
「おはよう、みんな。元気そうで良かったよ」
そう言って顔を出すと、予想外なことに淳平を含めた5人のみんなの顔色が明るくなった。
「美夜! お前の人脈にマジ感謝!!」
「会いたかったー!」
「やっぱり入院なんてするもんじゃねぇよ!」
見事に感想がバラバラだね。
怪我の具合いもそれぞれ違うみたいだ。
頭に包帯を巻いた子もいれば、足を吊るされている子もいる。
淳平は頭や口端しか目立った外傷はないが、多分、見えない所は青痣だらけなのだろう。
首元から覗く身体に包帯が巻きつかれてるのがチラリと見える。
すると、入って来た悠貴たち幹部集の面々に、下っ端のみんなは泣きそうになっていた。
淳平は悠貴と目が合うと、気まずそうに頭を掻いている。
「い、痛そう……」
陽光の何とも言えない表情に、下っ端たちは笑ってみせる。
「痛いッスよ。けど、ナースの方々が本当に優しくて!」
「天国みたいです!」
「へぇ、そうなの。美人?」
「美人ってより、可愛い系ッスね!」
「あ、一人、滅多に来ないけど、美人さんいるッス!」
うんうん、みんなの好みはどうだって良いかな。
女の私はついていけそうにないから、佐々木さんとでも話してよう。
「一番容態が酷いのは?」
「淳平だ。幹部だけあって、誰よも敵と戦ったんだろうな。内出血と打撲で、危なく骨にも響きそうなものだった」
そんな病状に私は思わず顔を顰めた。
「武器はパイプ?」
「パイプにバット。色々だな。俺でも同情するぞ。本人は誇らしく話してるけどな」
そう言った佐々木さんは少し微笑んでいて、「格好良いヤツだな」と囁いたのを私は聞き逃さなかった。
神鬼は少数派だけあって、みんなが漢気のある奴等ばかりだ。
プライドも意地も誇りも内側に溜め込んで喧嘩に挑んでる。
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