第30話

その場に残ったのは数10人の下っ端と私たちくらいだった。


 すると、下っ端たちが散って行った方向から逆走するように三台のバイクが現れて近くに停まる。


 そして、乗っていた体格の良い男たちが「どうした?」と聞きながら降りると、襲われた永人たちを見て訝しげに眉をひそめた。


 三人は周りから兄貴として慕われてる現役大学生の仲間たちだ。


 「大丈夫?」と5人を心配したのは、パーマヘアの有馬ありま 治義はるよしさんで。爽やかな笑顔を浮かべている。



「大丈夫ッす!」


「ホントかぁ?」



 そう言って陽光の傷口に触れようとしたのは、ツーブロックの嵯峨さが 大毅だいきさんだった。


 触れようとしている場所に気付いた陽光は慌てて嵯峨さんの手から逃れようと身体を引くと、横から伸びた大きな手が嵯峨の手を叩いた。


 止めたのはロングヘアの世羅せら純弥じゅんやさんだった。



「やめろ、ボケ」


「ハハハッ!」



 イタズラ心に笑った嵯峨さんを止めると、世羅さんが私を振り返った。



「良かったら支部の方、今から回ってくっけど?」


「ありがとう。それは助かる。残ってる奴等も一緒に連れて行ってくれて構わないから」


「うぃーす」


「ほいよ」



 軽く返事をする嵯峨さんと世羅さんに、有馬は私と視線を合わせると「いない間何かあったら連絡してね」と気遣ってくれた。


 兄貴と慕われる三人は大学生になった今でも神鬼に留まってくれている初代からのメンバーで、何かと率先して動いてくれるから頼りになる人たちだった。



「不安になってる子がいたらフォローよろしくね」


「いや、これくらいで怖がる奴なんかいねぇよ。みんな久しぶりの抗争にワクワクすると思うぜ?」


「そうかな」



 楽しそうに笑って励ましてくれる世羅さんに、私も釣られて微笑んだ。


 やっぱり仲間がいるって言うのは頼もしい。まぁ、暴走しないかがちょっと心配でもあるんだけど。


 離れていく後ろ姿を見ていると、適当に目付いた下っ端の数人を連れて倉庫から出て行った。


 三人に任せて置けば他の支部は問題ないだろう。


 何かあれば直ぐに連絡してくれるはずだ。



「みんな立てる?」


「余裕」


「大丈夫だよー」



 手を貸して立たせると、近くにいた三人の中学生が怪我した五人のバイクを手分けして動かしてくれた。


 中に入ると既にテーブルに救急箱が用意されていて、二人が治療に当たってくれた。



「──さて、話しを聞かせてくれる?」



 ソファに座って手当てをされながら永人と陽光は喧嘩になった状況を詳しく話し始めた。



「それが、学校を出たら後をつけられててさ」



聞いていると敵に狙われたのは陽光と永人で、二人はもともと学校帰りで別行動だったらしい。


視線を感じた陽光は下っ端三人と合流した所で、尾行して来ている奴等を返り討ちに合わせようと、公園へ立ち寄り、10人の集団と喧嘩になった。



「そこに俺が通り掛かって……」



倉庫に向かう途中、偶然見かけた永人が助けに入って応戦したが、永人もつけてられていたみたいで、結局のところ相手は約20人と喧嘩になったらしい。


それを5人で返り討ちにして来たのだから、『神鬼』の構成員と言うのは本当にすごい話だと思う。


さすが幹部を務めてるだけあるなぁ……。



「とっ捕まえてどこの連中か吐かせようとしたんだけど、逃げ足はやくてち逃しちゃった」


「見た感じ、顔触れは初めて見かける奴等ばかりだったな。

 多分、まだ全国に名前が上がってない族の下の奴等だと思う。ピアスとかも特徴が無かったから、下っ端の奴等なのは確実だ。喧嘩もそんなに強くもなかった」



 ……可笑しい。


 そうなると、無名のところがNo.1欲しさに神鬼を狙ったってことになるけど、やっていることが大胆過ぎる。


 地元でも、都外からも、無鉄砲に襲ってくる奴等はいなかった。


 それに、尻尾を捕まさせないこの手口は、弱い所がやるにはかなり手慣れている気がするのは気のせいなのか?



「たった10人で僕を狙うとか、完全に舐めきってるよね!

 次会ったら絶対に捕まえて、ボッコボコにしてやるんだから!!」



 悔しそうに手足をジタバタさせる陽光。


 二人の話しを聞いていて一番引っかかるのが、幹部の陽光と永人を確実に狙ってきたと云う点だ。


 個人を特定してから動いてる所を見る限り、『神鬼』についての、それも幹部についての情報を知っていることになる。


 大きな族のように立派なハッカーがいるなら簡単かもしれないが、それでも簡単に神鬼の情報が出てくるとは考え難い。



「情報が足りねぇな。掴まえんのは難しいだろ」



 悠貴の言葉にその場が静まり返る。


 検討がつかない現状でしらみ潰しに探すのは時間の無駄だ。


 『神鬼』の弱点を上げるなら、こう云う時にPCが得意な奴がいないことだと思う。


 ハッカーがいない以上、地道に探すしかないのだ。


 ──ま、その代わりに私の友達には情報屋がいるんだけどね。



「知り合いに聞いてみるよ」



 きっとあの二人なら何か掴める筈だ。


 すると、永人がボソリと呟いた。



「多分……」



 ん……?


 一斉に視線が向けられたのを永人は気づかず、考え込むように俯いて遠い目をしていた。


 それから顔を上げるとハッキリと口にする。



「また来ると思う。力試ちからだめしなら、他のメンバーとも戦いたいと思うはずだから」



 確かに永人の言うことには一理ある。


 計画的とも思える今回の事件は二人を襲っただけでは終わらないだろう。


 亮平と悠貴もいるのだ。そうなれば相手からきっちり名乗らせる機会はまだあるかもしれない。



「おしゃ。今度は俺の番だな。相手10人とか楽しそうじゃねぇか」



 あぁあ。淳平が楽しそうに笑っちゃってるよ。


 隣りの悠貴も悪い顔してるし……。


 これは抗争になる前に荒れるかもなぁ。



「取り敢えず、情報屋と俺達で探せばもう少し分かるだろ。それまでは様子見だな」


「そうだね」



 悠貴が話しを締め括ると、私たちは嵯峨さんたちが戻るのを待った。


 その間に周辺を見てきた下っ端の子たちがぞろぞろと戻って来て、報告をしにやって来る。


 特に異常もなく、なんの手掛かりは得られないまま日が暮れようとしていた。

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