突然の襲撃

第29話

夕礼が終わると一度帰宅した私は、着替えてから神鬼の倉庫へと来ていた。


 バイクを駐車場になっているスペースに止めると、中に入って行く。



「悠貴どうだった?」



 奥まで来ると、既に悠貴と淳平は来ていてソファでくつろいでいた。


 どうやらいるのは二人だけのようで、永人と陽光はまだ来てないみたいだ。


 いつもなら私が来る前にはみんながいるのに、珍しいこともあるんだなぁと思っていると、私が聞いた問に淳平が手に持っていた一枚の紙をヒラヒラと振っていた。



「そーちょー、コレ」



 淳平からプリントを貰うと、支部巡察の日程が簡単にまとめられていた。


 目を通すと特に問題はないように思う。



「うん、良いんじゃない」


「アイツ等にも送っておく」


「よろしく」



 悠貴に紙を返すと、テーブルの上にあった携帯を弄りはじめる。


 ソファに座ると思わず溜め息が出た。


 その時になって、林間学校の決めごとの件で自分でも気付かない内に疲れていたらしいことに気付いた。


 私の溜め息に淳平が不思議に思って聞いてくる。



「なにかあったのか?」


「ちょっとね」



 聞かれた私は林間学校の班員の面々を思い出していた。


 ──赤龍の人と同じ班になったことは悠貴たちには言えないな。


 それにしても、千聖の強きな態度は双子にとってストレスだろう。


 不満を実代子にぶつけていじめにならなければ良いが……。



「あ、そう言えば動画みたよ」


「動画ー? あぁ、前に流行ったヤツな」


「うん、それ」


「今はなぁこの動画が旬だぜ!」



 時差で送られ来たのは猫の動画だった。


 

「癒やされるだろ?」



 「うん」と頷くが、内心では感心していた。


 外見に似合わずこんな可愛いのを見るんだなぁ。もっと男の子らしい趣味の動画を見てるものだと思った。



「淳平も動物を可愛いがる気持ちがあるんだね」


「おい、それだと俺が極悪人になるじゃねぇか!」


「あはは!」



 極悪とは思ってないけど、動物に興味がないと思ってたのは確かだ。



「あはは! ──じゃ、ねぇわ!」



 淳平と話しながら動画を見ていると悠貴を見る。


 会話に入って来ない悠貴はいつもながら真面目に勉強をしていた。


 こんな騒がしい所で良く集中してるよね。それに比べて淳平は呑気にゲーム中だ。


 かく言う私も勉強する気はさらさらないんだけど。



「淳平、トランプしよーよ」


「いいぜ。何賭ける?」


「賭けはしない」


「ちぇッ」



 ただの遊びを本気でしたくないよ……。


 テーブル下のおもちゃ箱からトランプを取り出すと、ポーカーをして遊ぶことにした。


 暫くすると後ろからざわついた声が聞こえて来て、振り返ると倉庫の出入り口に下っ端の子たちが群がっているのが見える。


 私の反応に悠貴と淳平も後ろを見た。



「騒がしいな」


「そうだね」



 神鬼には傘下がない。だから、来客が来ることは滅多にない。それが無害な来客なら尚更。


 あるとしたら内輪揉めか、奇襲か、だ。


 その騒動は出入り口の近くにいた下っ端の子たちを惹き付けて、どんどん大きな集団になって行った。


 その内、一人二人と外へ出て行くのが見て分かる。


 誰も報告しに来ないってことは、奇襲ってワケじゃなさそうだけど……。



「気になるな」



 手を止めていた悠貴が集団に視線を向けながら呟くと立ち上がった。


 私も立ち上がり、下っ端の集団へと歩み出す。


 その後ろから悠貴と淳平が着いて来て、居なくなった倉庫から外に出た。


 集団に近づくと、私たちの存在に気付いた男たちが中心へと続く通路を作る。


 開いた道を進んで近寄って行くと、中心にいたはバイクのそばで座り込む永人と陽光、そして下っ端の三人の姿だった。


 みんなの制服はボロボロで、砂や泥で汚れていた。


 怪我をしてるのか腕や肩を抑えている。



「一体、何があったの……?」


「美夜!!」


「美夜ちゃん!?」



 ボソリと囁くと、私に気付いた永人と陽光が目を大きく開いた。


 疲れ果てている仲間の姿を見て私は動揺していた。言葉が出せずに呆然と5人の状態を見守る。



「遅かったみたいだな……」


「えぇ、急いで来たのにぃ!!」



 そう言って頬を膨らませる陽光に、永人は気まずそうにして目を合わせとしない。


 近くにいた下っ端の三人も目を逸らしながら「これはですね……」と誤魔化そうとしているのか、口篭る。


 よく見ると5人は軽い傷だらけで、口の端を切ってたり、擦り傷があったりと、小さい傷が見え隠れしていた。


 きっと抑えているところは、ぶつけて来たのだろう。


 血が滲んで痛そうにしているが、大き傷はないらしく、流血している所は無さそうだった。


 それでも制服の汚れは酷いことから、大勢相手に喧嘩をしたのは間違いなさそうだ。


 まさか本当に奇襲……?


 いったい誰が5人を狙ったの?


 どこかに狙われてる情報は入って来てなかったのに……。



「おい、中に入れ。詳しいことは奥で聞く」



 後ろから聞こえた悠貴の声にハッとして我に返る。


 ──そうだ。みんな集まってるんだ。私が取り乱したら混乱してしまう。


 頭の回転が少しずつ動くと、取り敢えずこの場を収めるために周りに指示を出す。



「誰か救急箱を用意して置いて!」


「は、はい!」



 すると後ろにいた一人が返事をして、倉庫の中へ駆けて行くのが見えた。


 悠貴を見て私は正しく判断するために短い会話をする。



「仲間が三人。幹部が二人怪我した」


「そうだな」



 それだけで何となく、これは大きな抗争になると直感で判断した。


 神鬼のメンバーは決して弱くはない。


 つまり、咄嗟に起きた問題とは考え難く、宣戦布告としか思えなかった。


 私は陽光と永人に近寄り、みんなを見渡す。



「今日から出来るだけ一人の行動は控えること。今、来てない仲間にも注意するよう連絡をして!

 次の指示を出すまで、みんなはいつも通りに行動をしていて欲しい。いいね!?」


『はい……!!』



 私の指示に大きな返事が返って来ると、集まっていたみんなは直ぐに自分たちが出来ることをしに散らばって行った。


 多分、その中の半数以上が周囲に怪しい奴がいないか見回りにあたってくれるだろう。

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