第28話

やって来た先生は後ろを親指で指すと二人を連れて来た用件を言った。



「美夜。女一人なら、コイツ等も一緒にしてやってくれ」


「それは、別に良いですけど……」



 けど、ちょっと一人、問題ありがあるのでは?


 本来ならこの班に来てはいけないような子がいる気がしますけど。


 なんて言って良いのか分からず、私は取り敢えず自己紹介をすることにした。



「改めまして、私は白雪美夜って言うの。よろしく」



 そう手を差し出したのは不機嫌そうにしているポニーテールの女子の方にだった。



「…………」



 愛想よく微笑んだつもりだったが、同類として扱われている私に心を開こうとはしないようだ。


 コレは完全に無視されてるな……。


 まぁ、無理ないか。シカちゃんから強引に連れて来られたって感じだもんね。


 見た目は茶髪で不良ぽいけど、薄化粧で香水とかつけてないし、普通に真面目な子だ。


 そんな子が暴走族のいるグループで、しかもだいぶうるさいグループに入れようとする方がどうかしている。



「よろしく」



 今度はメガネをかけた子に手を差し伸べる。優等生の方は戸惑いつつも手を握り返してくれた。



「ほ、宝条ほうじょう 実代子みよこです。よろしくお願いします」


「うん! 仲良くしようね」



 まだ私にも人当たりの良い性格をしていて、ちゃんと話しが出来ることに私は良かったと安堵する。


 小難しいことにならなくて良かった。


 すると、傍らで様子を見ていた鹿羽先生がポニーテールの子に言った。



「おい、上原かみはら。ちょっとはクラスメイトと仲良くやれよ。美夜も宝生も絡みやすい奴だからな」


「……分かりました。私は上原 千聖ちさと。よろしく」


「うん、よろしく」


「よろしくお願いします」



 千聖は渋々と自己紹介を済ませると、実代子を見て「あなたは無害そうだから良いけど」と言い、私たちには蔑んだ顔で撥ね付けて来た。



「私、悪目立ちしたくないの。煩そうだから必要以上に話しかけて来ないで」



 釣り目の目元をさらに険しくさせた千聖の顔は、睨んでるようにも見えて、その場の空気が凍りついたような気がした。


 結構ハッキリ言うんだなぁ。


 お陰で章と藍の顔がちょっと怖いくらいに引き攣ってるよ。



「まぁこんな奴だけど、よろしく頼むわ!」



 手を上げて二人を置いてこうとする鹿羽先生は、今度は章と柊真に指示を出した。



「そんで悪いんだが、章と柊真はあっちの女子とくっついてくれ。そんで、藍と蒼がこの三人と一緒だな」



 シカちゃんの無茶振りに、座っていた私たちは一斉に「え!?」と声を上げる。


 特に章は絶望した表情を浮かべて、藍は「はぁ!?」と苛立っているのを隠さずにいるようだった。


 嫌なのは私もだ。


 かってに決められていく班員に、文句の一つくらい付けたい。



「ちょっとシカちゃん……?」



 それは流石に無謀と言うものだ。


 生徒にも相性と言うのがあるのだから。



「しょうがないだろ。藍の性格上、他の奴等は無理だ」



 だからって、私も章と柊真とが良いんだけど……!?


 そう思って先生をじっと見つめたのに、先生はそれ以上私を見ようとはしなかった。


 先生も私の不満は分かっているのだろう。事情があるみたいだけど、千聖と実代子も困惑している。



「あぁそうだ。宝生、悪いが委員長と班長をやってくれ。美夜は宝生のことよろしく頼むわ」


「え……?」



 今、サラリと私に丸投げしていった……?


 じょ、冗談だよね!?


 そして去ろうとする鹿羽先生に藍が立ち上がって抗議した。



「おい! ふざけてるだろ……!」


「ふざけてなんかないぞ。至って真面目な話しだ」


「意味わかんねぇ!! 俺と藍以外に班員なんていらねぇし! しかも、何で面倒くさい奴ばっかりなのさ」


「お前なぁ。美夜をどうして嫌ってるか知らんが、一番お前たちに理解ある奴なんだぞ。

 あと宝生はこのクラスの委員長だし、上原は優等生の中でもお前たちと同等に話せる奴だ。それとな──お前はちっとは社交性を身につけろ! 他の奴等もだ!! 以上、反論は認めん!!」



 シカちゃんご立腹だなぁ。


 不機嫌な先生に章と柊真は引きずかれて、前の方にいた女子生徒と引き合わせていた。


 ──兎に角だ。


 先生の中でこの班のメンバーがこのクラスの問題児なのだろう。


 優等生だけど人見知りの委員長に、多分、暴走族嫌いの女の子。


 そして、人に馴染まない双子と、この私。


 美代子と千聖は受け入れられるとして、藍と蒼と一緒なのは頭がいたい。


 やっぱり赤龍と関わっちゃうんだなぁ。


 班メンバーを順番に見回すと、改めてシカちゃんの言葉を思い出す。


 黒板を見ると委員長の所には美代子の名前が書かれいた。



「どうしたの?」


「……なんでもないよ」



 シカちゃんめ、全部押し付けて行きやがったな。


 委員長と班長の仕事がどのくらい忙しいのか知らないけど、美代子がいない間、シカちゃんに頼まれた私がこの班メンバーをまとめることになる。


 つまり、双子の相手をするのは私なのだ。


 藍の視線が横から刺さる。



「なんでこんな奴と……」


「なんで暴走族の奴と一緒にならないといけないのよ」


「美夜ちゃんと同じ班……」


「あ、あの。美夜ちゃん、ココはコレで良いのかな?」


「──うん。良いんじゃないかな」



 ダメだ。班内の温度差が激しい。音を上げたくなる。


 白雪家の長女として、シカちゃんに借りをつくる為にもやっておきたいが、今にでも挫折しそうだ。


 実代子から回ってきた紙に班員の一人として名前を記していると、鹿羽先生の進行で班内での係を決めることになり、適当に好きなことをするようになった。


 その後一度休憩を挟み、次の決めごとではバスの席順を決めていた。

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