決めごと

第27話

教室に着くと鹿羽先生がいた。



「よーやっと来たか」



 チャイムが鳴っていたとは言え、先に教室に向かっていたら急がなくても大丈夫だろうと思っていたのに、まさか先に先生が教室に着いてるなんて思わなくて、時差に私は「あれ?」と首を傾げた。



「まさか、双子も一緒だったなんてなぁ。てっきりサボりかと思ったぞ」


「はぁ!? んなわけないだろ」


「そうだよなぁ。誰と組まされるか分からないもんなぁ」


「そうだよ!」



 噛み付くような勢いで言い返してくる藍を面白がっている鹿羽先生に、蒼が「これ、配る?」と聞くと、鹿羽先生は直ぐに揶揄うのをやめて「おう」と頷いた。



「そしたら戻ってくれ良いからな」


「人使い荒い!」


「どこがだ」



 戯れるように文句を言う藍と静かに配り始める蒼に、何も持ってない私は静かに席に着こうとすると、鹿羽先生が「美夜はちょっと待て」と引き止められた。


 ほいと渡されたのは一枚の紙で、クラスと班の役割りが書いてある。



「お前はコレを黒板に書いてくれ」


「え、」



 鹿羽先生を見つめると、ニコニコと爽やかな整った顔を使ってきて、その時につくづく使えるものは使う先生だなと思った。


 拒否するのは諦めて紙を貰うと、内容を黒板に写し始める。


 その間、先生は注意事項を話したいた。


 私が書いているのはこれから決めるものらしい。


 林間学校のクラス別の実行委員、副委員に。班別行動や宿泊施設での班分けと、班長、副班長、美化係、シーツ係の係決め。


 それが今日、話し合う内容だろう。


 カッと音を立てて最後の文字の書き終わると、先生の話しも終わったみたいで、黒板を見ながら「サンキュー」と言って進行を進めた。



「んじゃ林間学校の班決めするぞー。各班に男女合わせて5、6人で固まれー」



 鹿羽先生が言うとグループは殆ど決まっているように生徒たちは立ち上がって、仲の良い友達同士で固まっていた。



「美夜もご苦労さん。戻っていいぞー」


「はーい」



 手を払いながら席に戻って来ると章が私を見て笑った。



「先生に捕まって難儀やったな」


「ホントだよ」



 肩を落として呟くと、章が声を出して笑う。


 そんな中、柊真が聞いてきた。



「なぁ、いつの間に藍と蒼と仲良くなったんだ?」



 その質問に反応を示したのは藍だ。



「仲良くなってない!」


「そうか? それにしても一緒に来るって中々の進歩だと思うけどな」


「それは仕方なくだよ! 奏介にコイツの荷物を持たされたから一緒に来ただけ!」


「いや、お前は普通に置いて行くだろ」


「しょうがないだろ。奏介がレディーファーストがどうとかって言ってきたんだ」



 藍の並べる理由を聞いているうちに、私も少しずう藍への疑問が深まっていった。


 章の言う通り、奏介がそう言ったからといって私と一緒に来るとは考えにくい。まぁ、だからって好かれるとも思えないが。


 強いていえば、蒼が褒めてくれるからだろうか。


 双子の仲はそこら辺の兄弟よりも深い関係を築いてる。


 私のことを未だにも受け入れようとする蒼が一緒にいたから藍は付いて来たのだろう。



「もうどうだって良いだろ!」


「分かったよ。それで藍は誰と組むんだ? 班決めの最中だろ今」


「……そう言う章はどうなんだよ」


「もちろん俺は美夜と組む! な。美夜!」


「うん、いいよ。私も章と柊真と組みたかったから」



 他の誰かと組むより、仲良くなった章と柊真と組んだ方が楽しめそうだし。


 そんな私の返答に章は自慢するように胸を張って鼻を擦った。


 藍は私を見ると、チッと舌打ちをする。



「なんだよ、藍。拗ねてんのかぁ?」


「ちげぇし! だいたい章も柊真もそいつと仲良すぎだろ!」


「そりゃぁ、最初に友達になったの美夜だし」


「だな。逆に何をそんな敵視してるんだよ」


「それは、コイツが來を──」



 傷つけるからと続けた藍の台詞に、言葉を重ねたのは隣りにいた蒼だった。



「來が美夜ちゃんに興味を持ちはじめたから藍が嫉妬してるだけだよ」


「はぁ!? おい、蒼! なに変なこと言い出すんだよ!」


「だって藍ってば、美夜ちゃんにだけ敵視してるんだもん」


「だからそれはコイツが來を傷つけたから!」



 反論する藍に章が反応した。



「來さんを傷つけたー?」



 私を見る章。その態度にやっと私を嫌う仲間が出来たみたいに藍が都合の良いように続ける。



「そうだよ! 來を誘惑しておいて、振ったんだ!」


「美夜、お前……」



 まさか章も、來を慕ってたのかな?


 でも、誰になんて言われても無理なものは無理なんだけど。



「──そんな仲良いなんて聞いてないぞ!?」



 そう言って勢い良く立ち上がって、「何で來さんなんだよ!」と憤りっていた。


 予想外の反応に私は口篭ってしまう。



「はい? ……いや、別にそんな仲よくなってないよ」


「ほんまか!? ほんまに俺だけしか仲良くしてないって言い切れるんか!?」


「章だけって……」



 何言ってんだ、この子は……。



「悪いな、美夜。しばらく放置すれば収まるから」


「あぁ、うん」



 まさかここまで騒がしくなるとは。


 そんなに來と関わっているのが気に入らないのか?


 まぁそれだけ、私と仲良くなりたいってことなんだろうけど……。



「み、美夜。一つだけ答えてくれ」


「……なに?」



 今度は何を言い出すんだ?


 コレ以上騒がれると先生がこっち来る。


 いや、もう目をつけられてるけど、まだ引き返せるはず……!!


 そう思って章の質問に耳を貸すと、とんでもない質問を賜わった。



「俺と來さんならどっちが好み……!?」


「はい?」



 えっと、これは一体、どんな意味なんだろう?


 思ってもなかった質問に私は答えに窮していると、後ろから先生がやって来て、章の頭をかち割った。



「おめぇ等、うっせぇわ」


「ぐぉッ……!?!?」



 呻き声を上げた章は頭を抑えてて痛みに耐えていた。


 その様子を私達は呆然としながら見守る。


 い、痛そう……。



「たく。ふざけてねぇで早く班を決めろよなぁ」



 ……いや、章は決まってたんだけどな。


 鹿羽先生の登場に振り向くと、先生の後ろに茶髪のポニーテールの女子と、 黒髪のミディアムヘアに赤いフレームのメガネを掛けている女子がいることに気付いた。


 釣り目の女の子は私たちを見渡してから、めちゃくちゃ嫌そうに顔を歪ませて、まるで汚いものを見てるような酷い顔つきに私は苦笑いを零す。


 もう一人は少し地味な感じだけど、可愛い顔立ちをしていて、いかにも優等生ぽい子だった。

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