第14話
バイクを走らせると、川沿いを走った先に三つ並んだ廃倉庫が見えて来た。
その真ん中の倉庫まで走らせて、半開きのシャッターの前まで来ると、バイクを端に止める。
開いている下から潜るように中に入ると、屋内では大勢の男たち集まって駄弁っていた。ふざけあって身体を動かしている奴等もいる。
楽しそうなように私は足を踏み入れると、使われてない廃屋の砂埃と、華のないむさ苦しい男臭が充満しているの臭いが鼻につく。
言っても、大して気にするような強力な香りではないので、歩み出した足を止めることはしない。
すると、近くにいた三人の下っ端が私に気付くと、バッと慌てて立ち上がり、先に挨拶をしてくれた。
『総長! こんちわッ!』
「うん。みんな、お疲れさま」
その大きな声に回りにいた男たちも気付き、いつの間にか倉庫全体で頭を下げて、私が通れるように道を作ってくれた。
『お疲れ様ですッ!!』
礼儀正しい下の奴等に「お疲れさま」と声を掛けながらゆっくりと歩く。
この光景にもやっとなれてきたかな。
此処へ来たときから思っていたけれど、みんなの“総長”に対しての礼儀正しさにはいつも驚いてばかりだ。
先代がどれだけ敬われていたのか、この光景を見ればひしひしと伝わってくる。
奥まで進めば、テーブルとソファが置かれてあり、すでに四人の姿があった。
「みんな学校お疲れさま。遅れてごめんね」
「別に。一番遠い高校に行ってるから多少の遅れなら想定内だ」
「ありがとう」
金髪のツーブロックヘアの男が書類を見ながら言ってくる。
ちょっと遠回しな言葉だけど、この男の中では最大限に優しく許しているつもりでいるらしい。
最初に会った時は無愛想な態度に、中々、素直に受け入ることが出来なかったけど、今はもう通常運転って知ってるから、すんなりその言葉を受け入れられる。
彼は副総長の、
頭の回転が早くて、喧嘩も強いから、下っ端からの尊敬が厚い。
神鬼にとって頼れる兄貴みたいな人なんだと思ってる。
悠貴の隣りに座っているのは、幹部の
中学三年生で、赤茶色のショートカットヘアで愛嬌がある年下だった。
お調子者で明るい性格をしていて、下っ端とはすごく仲良い。偶にどっかに出掛けているようで、会うたび楽しそうにしている。
抗争前とかはムードメーカーとしてみんなのフォローをしてくれているから、精神面での支えは陽光が養ってくれていると言い切れる存在だ。
そして、現在の幹部では最年少。
その横、一人がけのソファで携帯を片手間にいじってるのは、幹部の
高校一年生なのに、タッパが180センチあって、立ってるだけでも威圧感ある。見た目も金髪のオールバックで、赤いカチューシャを付けていので尚更、存在しているだけで相手をビビらせてしまっていた。
けれど性格は豪快で明るくて、動物にも、人にも優しい奴だ。
最後に一人がけのソファで大人しく本を読んでいるのが、幹部の
高校二年生で、こんな喧騒とした場所にいるのに、常に冷静な男だった。
いつも眠そうな瞳で、黒髪の襟足の長い髪が少し可愛く思えているのは内緒だ。
身長は淳平と大差無く、真反対な性格をしていてる永人は、先代の時から幹部として『神鬼』に留まっている。
つまり、幹部の中では一番内情を知ってる男でもある。
そして、私は『神鬼』の二代目総長。
族に入る前からこの不良の世界に足を踏み入れた私には、通り名がある。
前振りは色々あるが、“族潰し依頼の『夜叉姫』”。
この街に来た頃にサイトに書き込まれた異端派の暴走族を潰していたら、そう呼ばれるようになっていた。
「美夜ちゃん来たし、早く始めよ! 定例会議!」
集まった私たちがこれから話し合うのは、神鬼の溜まり場になっている4つの場所を見回る『
神鬼には、本部のここを西として、北、南、東に支部があり、構成員のメンバーは本部や三支部の場所に、好きな所で過ごせるようになっている。
私が本部にいる間は支部長として選ばれた男たちが統括しているが、私たちも拠点にいる下っ端たちの動向をしっかり把握できるように、定期的に巡察をすることになっているのだ。
ある意味先代からの伝統行事でもあるので、止められないし。
この巡察では、幹部全員が下のメンバーと交流を持つ機会として、何よりも、ご法度であるいくつかの規律を破ってないかの確認をするのも兼ねているので、かなり重要な行事でもあった。
『神鬼』はもともと全体の人数が少ない。それでも拠点となる場所が多いのは、縄張りが広いからだと思っている。
実際の所は聞いたことがないから分からないが、拡大な縄張りと、色んな地区からメンバーが集まってきてるから、拠点が多いのはちゃんとメリットがあるのだ。
「いつ頃が良いとか、言っておきてぇことある奴いるか?」
悠貴のリードで会議が始まると、私は直ぐに言って置かないといけないことを伝えた。
「下旬に林間学校があるみたいだから、その前後がいいかな」
私はホームルー厶で先生が話していた、年間行事について気になっていたことを伝える。
「あぁ、そう言えば課外授業が来月の頭に入ってるって言ってたなぁ」
陽光が通っているのは白鷺中学校だ。
私はよく授業をサボっていたし、行事も最小限の参加で学校生活を送っていたから記憶があまりないが──。
去年の4月ってそんなことやってたんだ……。
「うわぁ、ずりー。こっちは遠足ねぇって言われたぜ?
な、永人先輩」
「……うん。前の生徒が問題起こしたって。俺たちの代も騒いでた」
へぇ、やっぱり天下の不良校は大変そうだなぁ。
永人と淳平の通う高校は都内でもヤンキーたちが集まっていることで有名な学校だもんね。
校内はめちゃくちゃに荒れてそうだな。
私たちの話しを聞きながらノートの切れ端にメモをしていく悠貴。
「俺も特にねぇ。強いて言えば、二者面がどうなるかだ。取り敢えず日付は、美夜と陽光の学校次第だな。詳しい日程を聞いてこい」
「分かった。先生に確認してメールする」
「上手く日付とんでくれるといいねぇ」
それだよね。
支部巡察の日付は、また後日改めて決めることになって一度終わった。
次は回る順番だ。順番は私以外の四人でじゃんけんをして決めていた。
元々、副総長や幹部のこのメンバーは、各支部を仕切る代表者として選ばれていたメンバーだから、じゃんけんで決めた方が手っ取り早いんだよね。
「──確認すると、最初に俺の本部。次が永人の北支部で、淳平の南支部に、最後に陽光の東支部。これでいいな?」
「全敗とかないわぁ」
陽光が肩を落とすと、隣りの淳平がポンッと手を置いた。
「言い出しっぺが最後なのは良くあることだよな。プププ」
「淳平うざっ!」
「おい、喧嘩すんな」
悠貴が制すと、私に「時間はどうする?」と聞いてきた。
「なんで私?」
「お前が一番、学校も家も遠いだろ」
あぁ、なるほど!
朝早くなったり、夜遅くなっても良いかってことか。
「私は学校サボるし、遅くなっても平気だよ。それに、ちゃんと調べてくれたんでしょ?」
この巡察では、出来るだけ下っ端のメンバーが揃ってる時間を狙いたい。
その為に、事前に時間帯を調べるように言って置いたのだ。
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