第15話
先に答えたのは陽光だった。
「うん! 東は6時だよ!」
「美夜が良いなら……、本部は7時だ。二人は?」
「こっちは昼の1時~5時の間だな。みんなバラバラ過ぎて把握が出来なかったわ」
「あぁ、南じゃしゃーねぇな」
確かに、絞り込むのに苦労する場所だよね。
以前、このメンバーになる前の幹部の人たちと一緒に回った時に、南の倉庫は印象的だった。
中学、高校、大学生、加えて社会人といった不良たちが集まっていて、年齢層の幅が広い所だったのだ。
社会人と中学生が戯れている姿は親子にしか見えなくて、まるで不良一家がまるごと『神鬼』に入ったような感覚だった。
そんな集まりだから動いている時間が学校ごと、職種ごとで違うのだから、時間がまばらなのはどうしようもないだろう。
メモ代わりの紙を見ながらそれぞれの拠点を何時に行くか悩んでる悠貴に私は提案した。
「それなら永人の北支部か、陽光の東支部と一緒にしてもいいかもしれないね」
「それって、昼過ぎに一度行って、昼食と東を回ってから南ってことか?」
「そうそう」
みんなが「あぁ」と納得してくれたけど、陽光はゲッソリした表情で項垂れた。
「それって、休日がまるまる消えるってことでしょ。
予定空けとかなきゃじゃん……」
「頼んだ」
どうやら悠貴の言葉は既に決定事項になったようだ。
「えぇー!!」
陽光は基本的に休日は遊んでいるから無理もないか。
「終わったら花火しよっか。去年の淳平が持ってたよね?」
「おぉ。良く覚えてんなぁ」
それは数カ月前の去年の冬の話しだ。
みんなで花火をやった時に、車の中に隠れていたのを淳平が持ち帰った。
「花火!? するッ!!」
「残ってるといいな。ヨウくん」
「なかったら淳平が買って置いて」
「はぁ!?」
二人はホントに仲良いなぁ。
その内、
180センチの淳平に、160センチの陽光で身長差がありながら口喧嘩するのって、意外とほのぼのするんだよね。
──うん。ホントに言われそう。ケンカする程、仲が良いって言うし。
今度、二人きりで何かさせてみようかな。
「永人のところはどうだ?」
「こっちは夜の9時から11 時の間でバラバラ」
夜遅い時間帯だなぁ。
「やけに遅いな」
「そう言ってる悠貴が一番遅いけどね〜」
「なぁ〜」
陽光と淳平が二人して頷くので、私は気になって「そうなの?」と聞いた。
「そーだよ」
「なんたって、朝帰りレベルで3時までいる時あるからな。」
「おい! ……チッ」
3時って……。
私は悠貴を見る。この時、「どうして」って本当は聞きたかったけど、私から目を逸らすように
今は聞かない方が良いと思った。変わりに──
「倉庫に泊まっても良いけど、誰か入って来たら危ないし、一人ではしないでね」
──そう伝えた。すると、少しの沈黙があった。
「……あぁ」
その以外そうな顔は何かな。
──あ、もしかして勘違いしてる?
「言って置くけど、ホントは早く帰った方が良いって言いたいからね?
悠貴は強いけど、神鬼を狙ってる奴等なんてそこら中にいるんだから。大きいケガしたら困る」
「気をつけるよ」
「ん。何かあったら相談してね」
「あぁ」
あぁこれ、かなり話しが脱線してるね。
「他に話すことは?」
「ない。重要な話しは終わったし、定例会議は終了だ」
悠貴が宣言すると、淳平と陽光は嬉しそうに立ち上がった。
会議はたった1時間程度だとしても、身体を動かしている方が好きな二人には、大人しく座っているのは苦行だったのだろう。
「遊んでくる!」
「鬼ごっこしようぜ!」
「ノッた!」
二人がいなくなると、永人が欠伸を零した。
「……部屋、行ってる」
永人が言った「部屋」とは、倉庫の奥にある仮眠室のことだ。
この倉庫には部屋が二つあって、扉に向かい合って左側が総長室で、右が幹部室になってる。
その幹部室を永人は仮眠室に使用してるんだ。
室内にはソファやベットが置いてあって、持ち寄った布団を掛けて寝ている。
「ん。何時に起こす?」
私と永人は帰り道の方向が同じで、私の護衛も兼ねて途中までだけど良く一緒に帰っている。
「……5時前。……おやすみ」
「おやすみ」
眠たげな声音の生返事をすると、のっそりと立ち上がり幹部室へと入って言った。
5時前なら、いつも通り4時半に起こせばいいだろう。
手持ち無沙汰になった私は悠貴をチラリと見ると、既に勉強を始めていたらしい。
悠貴が通う学校は、不良ではあり得ないくらいの進学校で。やたらと偏差値の高い高校に通っている。
喧嘩も強く、インテリ系とくれば、下っ端からの憧れも多く、『神鬼』のメンバーで悠貴と同じ高校に通っている(通っていた)奴等は、私が知っている限り、20人はいってると思う。
もちろん、永人や淳平のような不良校に通っている奴等が多いが、学力がある奴はいるってことだ。
まぁ、倉庫まで来て勉強してるのは、試験前を覗いては悠貴だけだけど……。
優秀な副総長に声を掛けるのは気が引けて寝転んだ。天井を見ながらぼんやりする。
私もアラームセットして、寝ちゃおっかな。
それか、暴走紛いにバイクでひとっ走りとかも楽しそう。
色々と考えたけど、やっぱり眠ることにして目を閉じた。
うとうととして来た頃に呼びかける声が上がった。
「なぁ」
声を掛けて来たのは側にいた悠貴だ。
「なに?」
目をうっすらと開いて、声の主の悠貴へ視線を向けると、当の悠貴はこっちを振り向かずに視線はノートへと注いでいた。
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