第12話
約2時間の入学式を終えると先生の挨拶はなく、私は鞄を持って直ぐに教室から出た。
向かったのは玄関ではなく、3年生の教室が並ぶ2階だ。
3年6組の教室まで来て中を覗くと、友達に囲まれている愁兄を見つけた。
愁兄も直ぐに私のことに気づいて、教室から出て来てくれた。
「美夜、おつかれ。
このあと、例のところに行くのか?」
「うん、その予定。愁兄は生徒会?」
「あぁ、だから遅くなる。また明日な」
「うん、またね!」
愁兄と手を振って別れると、私は階段を降りて生徒玄関へ向かった。
今日は色々あったなぁ、男友達も出来たし。
だけどやっぱり、円満なスクールライフには女子友達も欲しいんだよね。
中学校では音子がいてくれたけれど、一つ下だからこの高校にはいないし、いれるはずもない。
友達が欲しいなら、一人くらいは自分で見つけないとだろう。
昇降口に着くと、通路に溜まっている人集りに私は一度立ち止まった。
なーんか嫌な予感するなぁ、なんて溜め息が出そうになる不安を抱えつつ、廊下にたむろする六人の集団を知らん振りで通り過ぎる。
──と、背後から声を掛けられた。
「はーい。気づかないふりはやめよーね?」
声を掛けて来たは黒髪ストレートの男で。振り返った私の目の前に立っていたのは明るい茶髪の男だった。
他のメンバーはその場で私と茶髪の様子を伺っている。
「まだなにかあるの?」
「美夜ちゃんはホントに俺たちのこと怖くないんだね」
少し殺気立って聞いてくる茶髪に私は双子をチラリと見てから首を傾げた。
「聞いだでしょ、私が白鷺中出身だって」
「うん、聞いた」
それでも納得いかないって感じだね。
「他になにかあると思ってる? 先に言っておくと、その辺の騒いでる女子と私だって変わらないよ。だから別に普通です」
目を合わせて言うと、少し困った顔をした。
やんちゃそうなイケメンがシュンとしている。かわっ。
──ンンッ。
「それでも普通は怖がると思うんだけどなぁ」
黒髪ストレートが言いながら近寄って来たことに私は面倒くさく感じて、必殺技を使うことにした。
「──きゃぁ! 殺気怖いよぉ……」
「「今更、意味ないよねっ!?」」
「……チッ!」
「舌打ち!?」
一々ツッコミを入れてくる二人が側に来ると、どうやら赤龍側でも色々調べたようだ。
「悪いけど、こっちでも勝手に調べさせて貰ったよ」
「あぁ、別に良いですよ」
暴走族の人が調べるってことはハッキングだよね。
目立ったことはないと思うけど、何か気になったんだろうか。
「本当に余裕だね。美夜ちゃんはさ、何が書いてあると思う?」
これは、フェイク──。
「さぁ、生まれのことでも書いてあるんじゃないの?」
「……うん、当たり。だいたいそんな感じのことが書かれてる」
良かった。内容を知ってたらパソコンが出来ることになるからね。
何かしら疑われるところだったかも。
「何を疑ってるのか知らないけど──」
「夜叉姫」
──ビクッ。
「動揺したな」
「…………」
まったく、脅かせないで欲しいよ。
私のことなんて思い出せてないくせに。
「夜叉姫とは友達か?」
私だよ、気づいてよ。
鋭い視線を私に向けながら私の反応を観察する來。
その態度に私は胸に
「……さぁ。同じクラスにいたって噂はあったけど。
夜叉姫かもって程度だから本人かは分からない」
「ふぅん。なぁ美夜、こっち来いよ」
ロッカーに寄り掛かって立ってる來が私を呼んだ。
視線が合うと、胸がドキッって跳ね上がる。
真っ直ぐな視線が向けられていて、目が反らせなくなった。
あぁ、この視線だ。來の視線には迷いがない。
感情を滲ませずに、ただじっと見つめてくるだけ。だから私は惹かれたんだ。
けど、私はもう來の正体を知っちゃったから、これ以上関わることはしたくない。
たとえ來が私のことを覚えてなくても──。
『……………………………』
お互いに黙ったまま見つめ合っていた。
來の隣りいた三人も、私の前にいる二人も、誰も何も言わない。
ただ、私と來の様子を見守っている。
──長い沈黙が流れる。
ホントは「そっちから来なよ」って言いたかった。私のところに來が来てよって。
……はぁ、しょうがないか。
根負けしたのは私。來の一歩前まで歩いて行く。
「……これでいい?」
「もっと近くに来いよ」
「……はい」
私はもう一歩踏み出して、來のすぐ側まで近寄った。
多分、残りの距離は10センチとちょっと。手を伸ばせば身体に触れられる距離だ。
それくらい近づいて、私は見上げるかたちで來と見つめ合う。
そんな私の態度に來は何が面白かったのだろう──。
「ふっ。いい子だな美夜」
口角を上げていじらしく笑った來の笑みに、警戒していた私の頭は真っ白になった。
笑った顔がかっこよくて、一気に顔が熱くなる。
來が目の前にいるって改めて知って緊張して、可笑しいくらいに心臓が高鳴って。
……胸がすごく痛い。
「ら、らい──。ッ……!!」
慌てて口元に手を置いたけど、呟いた名前は目の前の男にちゃんと聞こえていたらしい。
「なんで俺の名前を知ってんだ?」
そう、訝しむ來に私は慌てた。
「そ、それは……」
ど、どうしよう。えっと……
──ズキッ。
ッ……!!
あぁ、もうっ。頭の中も、心の中も、全部がぐちゃぐちゃだ。
來が名前を教えてくれたんだよ。なのになんで覚えてないの?
気づいてないくせに、なんで目の前に現れたりするの?
私のことちゃんと覚えててよ。
私のことちゃんと見抜いてよ……。
「──バカッ!!」
「はぁ?? あ、おいっ!!」
私は一言、幼稚な暴言を吐き捨ててそのまま玄関を飛び出した。
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