第11話

予定の時間になってもなかなか来ない先生に、二人と他愛もない話で盛り上がっていると、しばらくして前方の扉が勢いよく開かれた。


  現れたのは、背の高い短髪の爽やか系教師。



「よぉし、お前たち席座れー」


「ホントに先生してる!」


「だから先生だっつっただろうが! ほら、テメェ等もとっとと座れ!!」


「はーい!」



 どうやら言葉遣いはとても爽やかではないようだが、優等生に接する態度は余裕のある大人って感じで、優し先生なのは分かる。


 あとから入って来た男子生徒は、3階のバルコニーにいた紺色の髪の二人組だった。



「お、来たぜ。赤龍幹部の双子。宮下藍と、蒼……!」



 二人のことを良く知っているのか、章の囁きに私は納得した。


  やっぱり双子だったんだ。どうりで同じ顔なわけだよね。



「おい、藍! 蒼! 二人ともここだぜ」



 章が名前を呼ぶと、双子は馴れ馴れしい呼び方に睨みつけていたが、章と柊真の顔に気付くと直ぐに嬉しそうな顔に変わった。



「まさか、章!? ──と、柊真!?」


「そーそー。窓側貰ってるぜ」


「はぁ!? なんでここにいんだよ!?」



 久しぶりの友達に再会したからか、はしゃぐ藍に先生が思いっきり頭を叩く。



「うるせぇ!  黙って座れ!!」


「叩かなくたって良いだろ!」



 先生に対して遠慮なく言い返した藍はそれでも大人しく章の隣りの(私の斜め前の)席に座ろうとした。



「──は? なんでお前がそこの席なんだよ!?」



 やっぱり絡んで来た……。



「なんでだろうね」



 素っ気なく答えると、馬鹿にされたと思ったのか、藍が睨んで来た。


 険悪な雰囲気にいち早く気付いた先生が声を掛ける。



「藍!」


「……なんだよ!?」


「大人しくしろよ」



 宥める先生に便乗して、章も立ち上がって「そーそー!」と言いながら藍の肩を抑えながら座らせた。



「そんな警戒するんなって。美夜ちゃんは良い子だぞ」



 章にもそう言われ、しかもクラスメイトの視線が集まっていることに気付いた藍は、喧嘩するのは良くないと思ったようで、盛大な舌打ちとともに渋々席に座った。


 藍後ろにいた蒼はチラリと私を見て一つ頷くと、柊真の隣りへと座る。


 ……今のは挨拶の代わりだろうか。



「よぉし! ホームルームはじめっぞー」



 先生が朝礼を始めて私は疑問に思うことがあった。


 先生は私のことをどこまで知ってる人なんだろう。


 何も言わないってことは、私が『神鬼』の総長だってことを知ってる人だよね。


 あと、隣りの席に名前があったはずなんだけど、休みなのかな。それか、早々に何かやったとか?


 そう思って先生の話しに耳を傾けると、後席に座っていた不良とギャルたちは以外にも大人しく、静かに話しを聞いていた。


 クラスは想像を裏切ってまともな教室になっている。



「──の前に自己紹介しとくか。俺は鹿羽シカバネ 大志タイシだ。よろしく!」



 先生が黒板にデカデカと名前を書くと、藍が叫んだ。



「シカちゃん、よろしく!」



 ……シカちゃん?



「この藍ッ! 調子乗ると欠席扱いすっぞ!!」


「えー! 横暴っ!!」



 藍が叫ぶと、ドッと一斉に笑いが起こった。


 シカちゃんって、プフッ……。


 フフ、可愛い名前だな。


 藍の叫んだ愛称に担任の鹿羽先生が嫌がるけれど、嫌がる顔をするほど逆に生徒たちには受けてしまって、結果みんなからシカちゃんと呼ばれるようになっていた。



「クソッ! 今度はお前らが自己紹介する番だ!

 あー……、一番後ろの美夜から!」


「えっ!?」



 なんで!?


 普通前からでしょ!



「え、じゃねぇ。お前、思いっきし笑ってただろ」



 うわぁ〜。



「目ざといなぁ、シカちゃん」


「はいはい。その場で自己紹介」


「はーい。えーと、白雪美夜です。よろしくお願いします」


「せめて出身中くらい言えよ!」



 先生の指摘にそれを言えば良かったのかと、手を打って、私は改めて付け加えた。



「出身中学は、白鷺しらさき中です」



 出身校を言うとクラスメイトがどよめき立った。


 結構有名だもんね。中学校のことを言えばこうなることは、だいだい予想できていたよ。


 なんたって──



「白鷺って、『神鬼』のど真ん中じゃねぇかよ」



 ──そう。章の言う通り『神鬼』がいる学校だからだ。


 私が総長を務めている『神鬼』はこの都内を仕切ってるそれなりに大きな暴走族で、武器は基本ご法度はっと。他にも犯罪行為に当たる、強姦ごうかんやドラッグなんかも禁止している暴走族だった。


 それでも喧嘩沙汰はかなり起こしてたりもするからか、一般人には怖がられているのだ。


 メンバーに入れるのは、年齢関係なく幹部クラスの人達から認められた奴等のみ。


 その内の中学生のほとんどが白鷺中の生徒なのだ。


 この話しは地元の人や、近所の街なら誰でも知ってる有名な話しで、別に『神鬼』のメンバーと関わったからってすごいことでもないんだけど……。


 なぜか白鷺中出身者は有名人になる。


 おかげさまで、高校生になって威張る元生徒が多発し、高校デビューで痛い目を見ることになっているらしい。


 ──私はそんなてつは踏まないけどね。



「私は『神鬼』とお友達じゃなかったので、質問はナシでお願いします。

 好きな教科は数学です。よろしくお願いします」



 それだけ言って、私は席に座った。


 白鷺中出身のおかげで色々誤魔化せるからちゃんと言っておかないとね。


 これで暴走族に詳しくても、万が一喧嘩を見られても、違和感はないでしょ。


 次に章が自己紹介をして順番で紹介していき、クラスメイト全員の自己紹介が終わった。


 章と柊真、藍と蒼の紹介を聞いてて分かったのは、中学校が隣り同士で、公園とかの交流で仲良しだったってことだ。


 当時はかなり仲が良かったみたいで、先生が話してる時も楽しそうにお喋りを楽しんでいた。


 先生は今、真面目に規則の話しをしている。



「このクラスは知っての通り、いくつかの特別な枠で入ったヤツばかりだ。

 それぞれ進級する条件が違うから、紙には目を通しておけよ」



 先生の言葉に紙を見ると、問題児枠と秀才枠の条件を見た。


 問題児でも優秀生でも決まった点数が設定されている。奨学生ではないから授業態度よりも期末試験の成績が一番重要視されるようだ。


 あとは警察沙汰の問題を起こさなきゃ大丈夫だろう。


 ──因みに秀才枠って言うのは、高校受験と特別枠申請試験のどちらかの試験で、必ず90点以上を取ることが合格の条件になっていて。


 進級の条件は、取得した教科で学校生活の本試において必ず90点以上を取ること。


 もちろん再試験が受けられるから、ちゃんと勉強していれば秀才枠でいられる。


 因みに私は申請試験で、五教科全て90点代でクリアした。だから、五教科全て高得点を取らないといけない。


 その後、教材とかの必要なものが配られてやっとホームルームが終わった。


 休憩が入ると、入学式をサボる人たちは帰って行く。


 章と柊真もサボるらしく、二人と少し話してから別れて、私は真面目な生徒に混ざって式の方に参加した。

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