龍の住処

第6話

入学式がある今日、俺は仲間と一緒に学校に来ていた。


 仲間と言うのは、暴走族『赤龍』の仲間だ。


 全国トップに君臨し続けるそのチームは名声名高く、他の暴走族たちから恐れられている。


 そんな『赤龍』の幹部クラスの6人のメンバーが俺達だった。


 2年生になる俺は入学式には来なくても良かったのだが、晴れて1年生になる仲間が二人いて、そいつ等にお願いされて今日は登校して来ている。



「…………」


「來、眠そうだね」


「あぁ」



 俺達が向かっている藍泉高校には特別コースがある。

 その中には問題児枠が存在して、俺達みたいな不良でも一定の勉強が出来てれば、簡単に合格が出来る学校独自のコースだった。


 だから別に受験に合格することは大したことじゃないと思っていたが……。



「來! 今日は来てくれてありがと!」


「ありがとう」



 そう言って後ろから突然、両腕に抱きついて来たのは、瓜ふたつの顔でも性格がまるっきり反対な双子だった。


 今日から1年生になる二人でもある。



「勉強、頑張ってたからな」



 兄の方は優秀だけど、弟の方の成績は絶望的だった。


 そんな二人に合格祝いで入学式は一緒に来てと言われたら来るしかないだろう。


 それに理事長からも、今日は全員で来るように呼び出されているしな。


 この学校の理事長は『赤龍』の初代総長だから、呼び出しは相応の理由がない限り断れない。



「やっぱりいつ見てもすげぇな!」


「うん。すごい……」



 校門まで来ると双子は俺の両腕から離れて、はしゃぎ出した。


 双子は『赤龍』の幹部だ。


 宮下みやした あいあお


 男性にしては低い身長に、紺色のゆるふわパーマで。


 好奇心旺盛でキレやすい藍とは反対的に、冷静沈着で感が鋭いのが蒼だ。



「だよなー。俺もたまぁに思い返すわ」


「俺たちがこんな学校に通えてんのって奇跡だよね」



 3年生、幹部の八代やつしろ くろと、都塚とつか 夕也ゆうや


 黒髪のベリーショートヘアが黎。


 明るい茶髪のツーブロック×マッシュヘアが夕也だ。


 中学校では因縁の仲だったらしいけど、高校に上がって喧嘩をしているうちに仲良くなったらしい。



「この広さのおかげで探検のしがいがあるんだよね」



 2年生、副総長の藤村ふじむら 奏介そうすけ


 黒髪のストレートヘアで、大人しいそうな外見を裏切って、ちょっとばかし問題ありな性格をしている。


 因みに俺と奏介、黎は小学校からの幼馴染みだ。



「奏介、夕也が迷子になった時のことを言ってるだろ」


「うん。そうだけど?」


「ひどっ!あれはお前らが置いていっただけだろ!」



 そして、最後に俺が『赤龍』10代目総長の紅坂 來。


 髪は赤色のショートで瞳はブラウン色。



 俺たちは比較的静かな時間を狙って登校すると、階段を上がり理事室へと向かった。


 ノックもせずに中に入ると、窓側で外を眺めながら優雅にコーヒーを飲んでいる理事長の御影みかげ ひびきさんの姿があった。



「──揃ってるな」



 理事長室に着いて早々、理事長は俺達を見て広角を上げる。


 「はい」と一言返事をすると、理事長の響さんは俺を見て何回目かも分からない言葉を口にした。



「相変わらず、外見は似てるのに中身は全然似てないな」


「…………」



 誰に?──なんて決まってる。両親にだ。


 俺の両親は『赤龍』の傘下に入っている『紅月』と言うチームで総長と姫と言う立場にいたらしい。


 赤龍の歴代や仲良しだった人達が出席するパーティーの集まりで、大人たちは俺と両親を見比べると必ずそう口にしていた。


 俺自身も思ってることだから否定せずにいるが、父に似てないと言われるのは、正直、落ち込むものがある。



「さて、本題に入るが。

 今年は他の族からも、かなりの人数がこの学校に入学して来ている」



 それはどうやら、近年と比べるとダントツ多いらしい。


 毎年何十人と不良が入って来てはいたが、赤龍の殆どの構成員がいるこの学校だから、他のチームの人間が入って来てもあまり気にならなかった。


 なのに、今年は30人近くの不良たちが入学するらしく、どの奴等もそれなりに名の通った奴らしい。


 教員の立場からすれば、5人だけでも押さえ付けるのに苦労するのに、一クラス分となれば暴動や喧嘩が起こる確率が高くなるに加えて、鎮めるのに苦労するのが目に見えて分かるのだから、問題視する声が上がるのは必然のことだった。


 ──けれど、俺達たちにとってそんなことはどうだって良い話しだ。


 一クラス分敵がいようが、ここには赤龍のメンバーが沢山いて、一人一人が不良10人相手でも勝てるくらいの腕っ節がある。暴れられたって直ぐに抑えられるのだ。


 それに、教員にも武闘派の先生が何人もいるから、一般生徒の被害も大したことはないだろう。


 だから、問題はそのことではなく──。



「例のヤツも入って来たんですか?

 神鬼のメンバーが一人入って来るんでしたよね?」



 先週、電話で告げられた話しを直球に聞くと、何も聞いてなかった蒼と藍が声を上げて驚いた。



「ハ? ちょ、神鬼? それって間違いないのかよ?」


「──あの神鬼から?」


「あぁ無事に来たぞ。

 向こうには無闇に喧嘩をしないよう言っておいたが、お前らも手を出すなよ」



 やっぱり来たのか……。


 敵対してる暴走族がいる学校に来たと云う事は、相応の理由と、腕っ節に自信があるってことだろう。


 『神鬼』は数年前からこの都内でトップクラスの暴走族で、“全国No.1”と“都内No.1”の肩書きから、赤龍とは互いに睨み合っている状況が続いている。


 犬猿の相手が側にいる環境なのに、一人で乗り込んでくるなんて相当の理由があるのだろうが、こちらからとしては歓迎できることじゃない。

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