第7話
それに──。
「來、平気?」
横から奏介に小突かれて、俺は険しい顔をしていたことに気づいた。
一年以上経っていることとは云え、俺と『神鬼』の間には因縁がある。
当時の総長と幹部勢とは変わってはいるが、それでも俺のことを知っている奴等はまだいて、現在の副総長なんかは俺との関係性が深い奴だった。
きっと今でも俺のことを恨んでいるだろう。
当時のことを思いだすと、俺自身どうすれば良いのか分からない。
“間違い”ではないだろうが、正しいことをしたとも思ってないのだ。『神鬼』からの避難は覚悟している。
ふと「來」と呼ばれて物思いに耽っていた顔を上げた。
俺をじっと見て見つめていた響さんが腕を組んで言った。
「向こうは過去のことを知らない奴等だ。知っていてもアイツは恨みを持つような奴じゃないしな」
「…………はい」
それしか返事が出来なかった。
周りが気にするなと言ってきても、俺には忘れることが出来ない。
黙っている俺に後ろにいた黎が興味を示したようだ。
「響さんがそこまでハッキリ言うなんて、入って来たのはどんなやつなんだ?」
「それを言ったら喧嘩になるだろうが。向こうは大人しいやつなんだ。放っていてやってくれ」
響さんからそう言われたら、それ以上聞くのは憚られる。
口を噤む中、俺を心配する藍は響さんのテーブルを叩いて詰め寄っていた。
「おい、響さん! 本当に大丈夫なのかよ!?」
納得がいかないのか、藍は響さんを睨みつける。
「安心しろ。アイツは自分から問題をつくるようなやつじゃない。お前が睨んでいても何も言ってこないだろうな」
「……やっぱり不安だ。神鬼なんてロクでもない奴ばっかりなんだから」
頬を膨らませて不満を零す藍に、響さんは微笑むとコーヒーを啜った。
まぁ、敵がいるなんて知ったら落ち着かねぇよな。
だからと言って、俺たちの意見で学校を辞めさせることは出来ないことは理解している。
問題を起こしてくれれば退学には出来るだろうが、響さんの話しを聞く限りそんなことはしないヤツなんだろう。
俺も少し不安だが、受け入れるしかない。
「分かりました。向こうが問題を起こすつもりがないなら放っていて起きます。
俺たちの役目はこの学校を守るだけですから」
「あぁ。分かってるじゃないか。頼んだぞ」
俺の言葉に響さんはどこか楽しそうに笑って頷いた。
その様子が含み笑みに感じられて、どこか裏がありそうな感じがするのだが、相手は初代総長で、大人だ。
探れるような人ではないのは重々承知なので、話しを終わせることにした。
俺たちは理事長室を後にして廊下を歩いていると、奏介がぼやく。
「神鬼かぁ。なんかスパイがいるみたいで落ち着けないね」
奏介の口から出た“スパイ”と言う言葉に、俺は黙り込む。
その線はあり得る話しだが、リスクが伴うことを一人でして来るとは思えない。
「……大丈夫だろ。そんなあからさまに近づいて来るようなバカじゃないはずだ」
歩きながら話していると、黎も同意を示した。
「だなー。わざわざ自分一人しかいない状態で、俺達を敵に回すような真似はしねぇだろ」
「でも神鬼って荒れてる人が多そうなイメージだよね」
夕也がボソリと言うと、不機嫌そうに藍が呟いた。
「信用出来ねぇ」
そんな藍のセリフに思わず、俺たちは苦笑いを浮かべる。
そもそも『神鬼』は『赤龍』と並ぶくらい強い所で、その脅威の強さから都内No.1と云う肩書きがついた。
その強さを誇っているのだから諜報活動に力を入れるような所じゃないだろう。
みんなのイメージが統一されているように、『神鬼』は守りに入るよりも、攻撃に回るようなチームだ。
その土台ともなるのは初代の存在が大きく関係している。
数年から結成した『神鬼』の初代総長の名前は
通り名は『帝王』と言う。
幹部が入れ替わる中、その男だけば圧倒的な強さでトップに立ち続けていた。
……それも、数カ月前のニュースで意識不明の重体と云うテロップが流れるまでは。だが──。
総長をなくした『神鬼』は、それから直ぐに荒れた。
無作為に喧嘩を売るようになり、女子供関係なく一般人に手を出し、仲間割れの噂も出ていた。
そんな神鬼を止めたのが──
「来たのが夜叉姫なら良いね」
「「いや、良くないから」」
俺たちとは打って変わって蒼の表情は明るかった。
奏介と黎が真っ先に反対している中、俺は数日前の夜のことを思い出す。
確かにアイツならのんびりしてそうだよな……。
──2代目総長『夜叉姫』。
女で暴走族のトップに立つと云うことは、容易じゃないからどのくらいの強さかは大体予想はつく。
初代総長に匹敵する圧倒的な強さ。じゃなきゃ神鬼の総長になんてなれない。
幹部以上の彼女だったら“姫”と云う立場がある。一つの族に守られる女の総称だ。
なのに『夜叉姫』と云う女性は、“総長”と云う立場で神鬼をまとめている。
──そんな強さを俺は既に実感していた。
数日前の夜。
悪名高い暴走族を夜叉姫は一人で片付けた。その直後に俺は会っている。
会ってるって言うよりは通りすがっただけだが……。
その時、夜叉姫は絡んで来ることはなかった。
後ろ姿を見つめていても睨んで来ることはなく、寧ろ俺に興味を持っていたくらいだ。
あの時は、まさか名前を聞かれるなんて思ってもみなかったな……。
しかも、歩く度に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます