21.議会ホール

『緊・急・招・集――』

 一斉メッセージが送信され、議会ホールに生徒会役員が一同に集められていた。

 送り主は白夜、生徒会長命令だった。


 時間ちょうどに室内に入ると、議長席の背後にある幹部席の中央、最も豪華な革張りの肘掛けイスに誰かが背中を向けて座っていた。


「そこは、生徒会長。つまり、私の席ですが?」

 冷静に話をしようとするが、怒りでどうしても声が上ずってしまう。

 相手がイスを反転させた。

 天窓から注ぐ日差しが強くて、顔がよく見えない。

 だが、見えなくともそこに座る人物の心当たりは、ひとりしかいない。


「どいて下さい。あなたのような人間が座れば、神聖な場所が汚れます」

 こればかりは譲れない。

 そこに座ることが許されるのは、この学園を背負って立つ覚悟と気概がある者だけだ。


「夜祭さん。聞こえていますか?」

 這い上がってくるような低い声、刺すような尖った目に、さすがに相手も怯んだ。

「そう、怖い顔をするな。つい懐かしくって」


 白夜が生徒会に入った去年、トップに君臨していた元生徒会長。

 悪評の限りを尽くして、失脚してもなお、生徒会に影響力を及ぼすキングメーカー。そして今、表舞台に返り咲こうと画策している新派閥「銀世界」の代表。

 間違いなく次に白夜が倒すべき相手だ。


「まあ、すぐにまた自分の席になるんだけれどね」

 そう言って、ようやく夜祭が立ち上がった。

 ゆっくりとした足取りで、一番右側のAブロックの席まで移動した。

 そこには、萌乃と朝日、そして霧がいた。

 後列には、宇井とゆり根がいる。

 なるほどゆり根だけでなく、宇井も飛鳥派を裏切り、新派閥に合流を決めたということか。


 隣のBブロックには、織姫派の三人、織姫とベガ、アルがいた。

 この並びのブロックエリアが、いわゆる新派閥。


 白夜は、中央のCブロックにいる、灯と有栖、日々にちらりと視線を送った。

 くすりとシヅカもそこにいることを確認してから、生徒会長席には座らずに、その手前の議長席に腰を下ろした。

 身内にはすでにこれから白夜が話す内容を伝えていたので、無駄な会話は必要なかった。全員、緊張や不安を宿した表情を浮かべていた。


 隣のDブロックには、飛鳥派の飛鳥と慧、雛子の三人が肩を寄せ合っていた。

 つい最近まで生徒会長を擁した派閥とは思えない、勢力の衰えだ。


 一番左端のEブロックには、まほろがひとり、ポツンと座っていた。

 白夜派の席にいないのは、まほろなりのけじめか、あるいは何か特段の意図があってのことなのか。

 おそらくその両方なのだろう。


「全員、お揃いですね」

 白夜が議長席から改めてで全員をぐるりと見回した。

 誰かひとりぐらい抵抗して、欠席するかもしれないとも思ったが、そんな反骨心や気概のあるような役員はいなかったらしい。


 どれだけ敵対していても今の生徒会長は白夜であり、生徒会の組閣の権利を有しているのだ。

 今はまだ歯向かうべきではないと判断したのだろう。


「いったいどういうつもりさ!」

 萌乃の甲高い可愛らしい声が響いた。

 それをきっかけに「遅ぇぞ」「偉そうにしやがって」「勝手な真似はさせねェ」と、いった野次が飛んだ。おそらく織姫や宇井といったところだろう。

 弱い野犬ほどよく吠える。

 白夜は可笑しさが込み上げてきて、少し笑ってしまった。


「夜祭さん、この度は、新派閥『銀世界』の結成、おめでとうございます。先日は大変失礼いたしました」

 白夜が一旦立ち上がり、頭を下げてから、また座った。

「それで、一応お伺いしますが、先の選挙、私が不正をしたという証拠は見つかったのでしょうか」


 夜祭がニヤニヤと愉快そうに頬を緩めた。

 せっかく平静を装って、余裕ぶりを見せつけているのに、すぐ後ろの席で萌乃が苦虫を噛み潰したような顔をしているので台無しだ。

 おそらくまだ何の情報も集まっていないのだろう。

 当然だ、そんな手抜かりはしない。


「先日の決起集会では、安楽白夜を否定して、生徒会政権を奪取する、ということでしたが、ひとつ確認させて下さい。

 それはつまり、私に対してクーデーター選挙を考えている、ということですか?」


「当然、そのつもりさ。首を洗って待ってるがいいさ」

 白夜は夜祭に聞いたのだが、萌乃が代わりに答えた。


「到底、勝ち筋が見えているとは思えませんが」

「はんッ。そうやって、今のうちにほざいてろ」

「あとで吠え面かいても知らねェからなッ」


 織姫と宇井が、萌乃を擁護すべく参戦してきたので、日々と有栖、くすりがトリオで対抗する。

「少しは静かに出来ないのかね」

「これから白夜ちゃんがすっごい大事な話するんだから」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ。銀世界なんて洒落た名前が聞いて呆れるねぇ」


 そこにベガやゆり根も加わって場外乱闘が発生する。制するように、夜祭が立ち上がった。

 途端に場内が静まり返る。

「自分も忙しいんだ。はっきり要件を言ったらどうだ?」


 白夜が「そのつもりだ」と言うように、小さく頷いた。

 制服の銀ボタンを撫で回し、瞳に白トカゲを宿す。

「では、手短にお伝えします。クーデター選挙を控えて頂きたい」


 途端にまた場内から罵声が飛ぶ。

 まったくスムーズに話をさせてくれない。

 要件を述べさせてくれないのはそちらではないか。

 うんざりした顔をしていると、再び夜祭が野次を抑えた。

「理由を聞かせてもらおう」

 白夜が立ち上がり、議長席の前に出た。


「クーデター選挙はつい二週間前に行われたばかりです。

 確かに、生徒会に異議申し立てがある場合、皆さんには、何時いかなる時であっても生徒会長を解任できる権利が与えられています。

 しかし、ここでまた学園中を巻き込んでの騒ぎを起こしては、多くの生徒に迷惑がかかります。

 特に高校三年生は進学を控えた大切な時期。お手を煩わせるのも気が引けます」


「なるほど、逃げる気か」

 夜祭が苦い笑みをたたえる。

 それを白夜が目で制して、さらに言葉を重ねた。


「それに、これ以上内乱を起こしていては、生徒会の信用にも関わります。

 いったい生徒会は何をやっているんだと批判が殺到するでしょう。

 最悪、いま特別に与えられている様々な権限を学園から奪われる可能性だってあります」

 白夜がゆっくりと夜祭たちがいる役員席に歩み寄る。


「生徒会はすぐにでも組閣を固めて、具体的に動き出さないといけない時期です。

 生徒会の運営に空白を生まないためにも、早急な対策が必要です。

 それは、白夜派、銀世界、どちらが政権をとったとしても同じことです。

 このことは納得して頂けますでしょうか」


「だからって、クーデターをするなって言うのは卑怯じゃないか」

 夜祭が真っ当な反論をする。


「そこで提案があります。一騎打ちをしようじゃありませんか」

「どういうことだ」

 夜祭が胡散臭そうに眉を上げた。


「言葉の意味、そのままです。私と夜祭さんで、どちらが生徒会長にふさわしいか、正々堂々勝負しましょう」


「なんさ、それは。タイマンで殴り合いでもするってことさ?」

 萌乃が立ち上がり、夜祭を守るように白夜との間に割って入る。

「だったら、うらがやってやるさ!」

「そんなわけないでしょう」

「荒っぽくて叶わん」

「こわい。こわい。ああ、こわい」

 有栖と日々、くすりの三バカトリオが困ったように顔を見合わせる。


 場外乱闘を横目に、夜祭は可笑しそうに舌なめずりをしている。

 まんざらでもないらしい。

 同意したと認識して、白夜が頭上を見上げると、天井から巨大なスクリーンが降りて来た。

 何のことはない、灯が壁の操作盤で動かしているだけだった。


 灯はそのまま『碧タブ』をプロジェクターに繋いで、映像を出した。

 生徒会のロゴの上に浮かび上がる文字。

 それを灯が読み上げた。

「一対一の真剣勝負――『総裁選』だ」


 場内がざわついたが、反対を唱える野次はなかった。

「ルールは単純。

 ここにいる生徒会役員が、白夜氏か夜祭氏、どちらかに投票し、勝った方が新しい次の生徒会長となる」

 スクリーンに図解動画を使って、ルール説明が表示される。


「なるほど。わかりやすいな」

 夜祭がぐるりと頭を反り返らせて、背後に控えている仲間を順番に見た。

 自分に投票するのは誰か、数えているのだろう。

 そして、その数が白夜を上回っていることを確認したようだった。

「自分は構わないが、本当にそれでいいのか?」


 白夜が「もちろんです」と言って、夜祭から離れて、再び議長席に向かって歩き出す。

「こちらから提案したことなんですから、問題ありません。夜祭さんは、話が早くて助かります」


「あとでルールを変えたら承知しないさ」

「今度は絶対にイカサマはさせねえから」

 萌乃と宇井が、白夜の背中を指さして、わめき散らした。

 もちろん、そんなことはしない。

 議長席に戻ると「あの」と小さな声が聞こえた。


 役員席を見渡すと、萌乃の隣にいる朝日が手を上げていた。

 意外な人物からの挙手に、夜祭たち身内からも戸惑いの目が向けられている。

「何でしょうか」

 白夜が発言を促す。


「聞き間違いでなければ、先ほどのルール説明では、ここにいる全員ではなく、ここにいる生徒会役員全員ということでした。

 つまり、現時点で生徒会役員ではない人には、選挙権はないということですか?」


 なるほど、そこにすぐに気がつくとは鋭い。

 灯からも報告を受けていたが、この朝日という中学生は、夜祭派に置いておくにはもったいない逸材かもしれない。

 朝日の指摘に、夜祭が舌打ちをする。

 どうやら夜祭も気づいていたらしい。


「朝日。どういうことさ?」

 萌乃は意味がわかっていないようだった。

 萌乃だけではない。新派閥で気づいたのは、朝日と夜祭だけだった。

 朝日が萌乃に説明する。


「白夜先輩が外部から招集した、くすり先輩やシヅカ先輩はまだ生徒会役員ではありません。ですから、いまのルールだと先輩たちには総裁選の投票資格がないんです」


 萌乃が「なるほど」と顎を撫でながら納得する。

 話題に上ったくすりが「イーッ」と舌を出して萌乃を挑発し、シヅカは他人事のように無言で顔を背けた。


「それは灯先輩も同じです。白夜先輩の陣営は、ほとんど選挙権がない人ばかりなんです。圧倒的に不利になるのに、こんな条件をつけるなんて、おかしいです。

 きっと、何か企んでいるはずなんです」


「朝日ちゃん。企むだなんてひどい」

「聞き捨てならないぞ」

「言いがかりだ、言いがかりだ、言いがかりだぞ」

 三バカトリオが、理由を知っているのに場をもり立てようと、ちょっかいを出す。 

 白夜がそれを形式的になだめてから、


「朝日さん。大変鋭い指摘ですが、くすりさんやシヅカさんを総裁選に参加させないというのは、私の身を守るためでもあるのです。そうしないと、不公平ではないですか」

「不公平? 何がですか?」


「私がくすりさんやシヅカさんに選挙権を与えてしまっては、夜祭さんも同じように外部から人を呼んで来ればいいことになります。

 それではいくらなんでも収集がつきませんし、数の勝負となれば、組織力のある夜祭さんの方が有利になることもあります」


「あ……」

 朝日がようやく納得する。

 夜祭がさっき舌打ちしたのは、そのことにすでに気づいていて、悪用しようと思っていたのだろう。

 話を整理するように、夜祭が改めて確認する。


「自分、本当にいいんだな。今からそいつら二人、及び壬生灯を生徒会役員にするのは許されないぞ」

「それは夜祭さんも同じです。これから新たに生徒会役員を増やさない。選挙権があるのは、いま現在、生徒会に所属している役員だけ」

 白夜が、夜祭と萌乃の後ろに隠れるように座っている霧を見た。


「すでに生徒会を辞めている霧さんにも選挙権はありません」

「承知した。自分は何の問題もない」

「では、一応、念書を取りましょうか。こちらへ」

 夜祭を議長席へと促す。

 しかし、朝日がまだ抵抗を見せて、立ち上がった夜祭を制した。


「おかしいです。夜祭先輩! 相手の口車に乗っちゃだめです。こんなの絶対おかしい。きっと何か、ルールの抜け穴があるんです、信用できない」

 夜祭が議長席の前で、ペンを持ったまま手を止めた。

 白夜は神妙な顔をして、朝日の目を見る。


「朝日さん。私は何も企んではいません」

「だったらなぜ、こんな無謀な総裁選なんてことを?」

「簡単なことです。夜祭さんに、生徒会を任せるわけにはいかないからです」

 ちょうどいい機会なので、朝日に少し探りを入れてみる。


「朝日さんも近くで見ていて、よくご存知なのでは? 萌乃さんの仕事ぶりを。

 その本流である、主君の夜祭さんに本当に政権を託してもいいとお思いですか?」


 朝日の目が一瞬揺らいだ。

 やはり思った通りだった。

 そんな朝日を、萌乃が憮然とした顔で睨みつけている。


「そんなことは絶対にさせません。独裁と呼ばれ、自分勝手な政策ばかりを押し付ける夜祭さんにこの学園を任せるわけにはいかないのです。

 ――私の望みは、将来この学園の卒業生だと胸を張って誇ること。

 そのために、この手で理想の学園を作りあげます。ですから、私は必ず勝ちます。勝たなければいけないのです」


「冷静になってください。勝ち目なんてありません」

「朝日さん。心配してくれなくても大丈夫です。確かに現時点では私に投票する人は少ないでしょう。ですが、いま夜祭さんについている皆さん全員、素直に投票するでしょうか? たとえば、織姫さん」


「あん? うちがお前に入れるわけねえだろ」

 織姫が親指で首を切るポーズをして、挑発する。

「例えばの話です。では、宇井さんでも、ゆり根さんでも」

「ああ? 俺たちが入れるわけねェだろ」

「右に同じー」

 ちなみに宇井は、ゆり根の左側にいる。


「では、萌乃さんは?」

「お前本気で言ってるのさ?」

 萌乃がうんざりしたように奥歯を噛みしめる。


「本気です。急ごしらえの新派閥の絆など、ほころびひとつで崩れます。

 必ず皆さんの牙城を崩してみせます。

 ですから、朝日さん。どうかご心配なさらず」

「無茶苦茶だ。勝てる見込みなんてないのに」

 朝日が、もう何を言っても無駄だと、イスにへなりと座り込んだ。


「異議あり!」

 このまま場を落ち着けまいと、まっすぐ挙手をして立ち上がったのは慧だった。

「総裁選、あたいたち飛鳥派を無視するな」

 慧が背後に控える飛鳥を振り返る。

「一騎打ちなんて、誰が決めた? 総裁選、飛鳥さんも立候補する」


 どよめき、というよりも呆れ返った議会ホールに、萌乃の高笑いが響いた。

「カーッカカカカッ。面白いさ。そんなことして、どうなるんさ。子供だって、ヌケ根だってわかるさ。なあ」


「ええっと。どうなるんだ?」

 突然話を振られて困惑するゆり根の代わりに、

「白夜派と飛鳥派の票が割れちゃって、ますます夜祭さんが有利になるんだよ」

 霧が答えた。


「それをわかって言ってるのさ?」

 萌乃の馬鹿にしたような口調で挑発する。

「勝つとか負けるとかの問題じゃない。あたいは生徒会長に相応しいのは飛鳥さん以外にいないと信じている。飛鳥さん、立候補しましょう!」


 全員の視線が飛鳥に集まった。白夜も見すえる。

 すると飛鳥は思案を巡らせ、静かに目を閉じた。

 長い睫毛がより一層際立つ。

 黙ったままの飛鳥に、慧の怒りが白夜に飛ぶ。


「もともとは白夜。おまえのせいだ。おまえが、有栖を連れて飛鳥派を出てからおかしくなったんだ。それをきっかけに、ゆり根も宇井も裏切った。

 でも、このままで終わると思うな。いいか、飛鳥派は必ずもう一度、立ち上がる。それを忘れるな」


「ありがとう、慧」

 飛鳥が静かに口を開いた。

「だけどわたしは総裁選には出ません」

「飛鳥さん!」

「たった一票差とはいえ、わたしはクーデターに負けたんです。それが学園の生徒の総意というのなら、いまさらわたしの出番はありません」


「安心するさ。飛鳥が総裁選に出たって、支持するのはせいぜい二人、二票しか入らんさ」

 萌乃が飛鳥と慧を交互に見て、また「カーカッカカカッ」と高笑いを響かせた。


「飛鳥さん! そんなこと言わないでください。あたいは飛鳥さんにしかついて行く気はありません。飛鳥さんにしか……」

 慧が今にも泣きそうな顔で声を絞り出す。

「すまない」

 飛鳥は労るように慧に優しい眼差しを向けると、今度は視線を夜祭に移した。


「同じように負けた貴方の復活もありえない。何が新しい派閥か、笑わせるな」

 言いながら「ですが…」と、哀しそうにため息を漏らす。


「貴方にはそんな正論、いくら言っても無駄でしょう。それに、一部の学園の生徒たちの盛り上がりを見ると、今はそんなことを言っている状況でもないのでしょう」

 白夜を向き直った。


「どうやら生徒会を去る前に、わたしにはまだやることがあるようですね」

 それはかつて世話になった上役の目だった。

「だからと言って、素直にわたしの一票を、貴方に投じるつもりもありません。わたしはまだ貴方を信じたわけではありません」


「白夜ちゃんにも夜祭ちゃんにも投票しない? それって?」

 有栖が首を傾げる。


「貴方が理想の学園を築きたいという目的は理解できました。ですが、それは本当に自分のためではないのですか? 

 自らのエゴではなく、本当に学園のことを考えているのか。その証拠を見せてください。そうすればわたしは貴方を支持します。

 そうでなければ、わたしは棄権します」

 白夜が微笑みを浮かべる。


「そうですね。私の理想が、飛鳥さんと同じことを祈ります」

 飛鳥がまた静かに着席した。

「あの」

 飛鳥の背後から小さな手が上がった。

 長身の慧の、そのうしろからそっと顔を覗かせる。

 雛子だった。


「その場合、考えなければいけないことが」

 と前置きしてから。

「飛鳥さんが棄権して、同点……、得票数が同じだった場合はどうするのでしょう」

 囁くような小さな声で、申し訳無さそうに言う。

 それでも自らの意見をよどみなく一息でまくし立てた。


「萌乃さんのところ、旧夜祭派が二人、織姫派が三人、白夜派が二人、無所属のまほろさん、それにどちらに付くかは置いといて、飛鳥派が現状五人。合計十三人。

 奇数なので、本来は同票にはなりませんが、ひとりが棄権をした場合は、同票になる可能性もあるかと」

 雛子は周りを見渡し、数を確かめるように言って、再び控えめに顔を伏せた。


 確かに、飛鳥などが棄権した場合は同票にならないとも限らない。

 白夜も考えていないわけではなかった。

 どう致しますか? そう尋ねるつもりで、白夜が夜祭を見た。


 雛子を見ていた夜祭は、白夜の視線に気づくと、

「……その場合、二人とも脱落。生徒会から追放、というのは?」

 真顔でそう言った。

 白夜は肯定も否定もしないでいると、短い沈黙のあと。夜祭が先に口を開いた。


「なんてな。そんなことをして、お互いまた誰か別の候補を立てて再選挙とか、そんな面倒なことやってる時間ももったいない。今度こそ本当に生徒会の信用も地に堕ちてしまう」


「その場合、やっぱさ、くじ引きじゃないの?」

 提案したのはゆり根だった。萌乃や織姫が「ヌケ根は黙ってろ」と無下にする。しかし。


「いいかもしれませんわ」

 頷いたのはシヅカだった。

「同点得票の場合のくじ引きは、公職選挙法でも規定されている方法です」

「なるほど、最後は運を天に任すというわけか。悪くない」

 夜祭が同意すると、

「わたくしも異論はありません」

 白夜もうなずいた。


 頭を掻いて照れているゆり根を、萌乃が本気の力でどついた。

 夜祭が、これ以上の意見が役員から出ないと判断して、念書にサインをする。

「で、いつやるんだ。こちらは明日でも構わないけどね」


 夜祭が白夜を挑発するように言う。

 確実に票を固めるには、もう少し時間がほしいところだが、ここで引いてはいけない。


「ええ。構いません」

 夜祭が驚いたように目を丸くしてから、口元を歪める。


「白夜くん、本気ですか?」

 その場の誰もが思ったことを真っ先に口にしたのは、ここまでずっと黙っていたまほろだった。

 白夜は「ご心配なさらず」と微笑みを返す。


「では、明日の放課後、午後五時。同じ場所で」

 灯の言葉をきっかけに、会合はお開きとなり、三々五々、全員が部屋を後にした。

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