こっちむいて、

第6話

朝、目が覚めると当たり前に久住さんは居なかった。私よりも早く目が覚めて、出社のために、一度帰宅したのだろう。


ちなみに、久住さんを見送ったことはほぼ無い。早起きしよう、と、何度意気込んでも、朝が弱い私にとっては難しい試みだし、久住さんも私を起こそうとは思わないらしい。


「(つぎこそは……)」


次が果たして、何時になるのか。知っているのは久住さんのみだ。



私の恋愛はいつも一方通行。好きでいるのは私。何かを望むのも私。進行方向を決めるのは久住さんで、決定権もまた彼にある。



ベッドの中を手で探った。まだ温かさを孕んでいた。隣にあるのは果たして久住さんの温もりなのか、自分のものなのか分からない。


「(……久住さん……)」


都合がいい私は、久住さんのものってことにする。鼻いっぱい吸い込む。久住さんの香りがして、心がキュンとした。


昨夜の余韻を持て余した身体、久住さんの温もり、匂い。


寝起きだっていうのに、いや、寝起きだから、交感神経が優位になり、熱を帯びてゆく。


ああ、朝からはしたない。


「ちょっとだけなら……」


ショートパンツを脱ぎ去って、ショーツの中に手を忍び込ませる。



うつ伏せになり、シーツに鼻に擦り付けて、久住さんの匂いを吸いながら自分の割れ目を撫でる。昨日の余韻を残したからだは随分と反応が良くて、敏感で。もう既に湿っているそこに軽く指を埋めて入り口のあたりに触れた。


久住さんの指とは全く違うそれは明らかに物足りないけれど、構造や仕組みを久住さんに教えこまれた私は、自分の気持ちいいところを刺激した。


目を閉じると、自分を抱く久住さんの姿が浮かぶ。


上がった息、華奢な体、私の体に触れる、骨張った大きな手。


久住さんの表情は余裕そのもので、喘ぐのも私だけ。

抱くその時も久住さんは久住さん。


私の家に来ておいて、暇だからという理由で、スマホゲーム中の彼のソレを咥えさせられたこともあるけれど、繋がっている時の久住さんはいつもより糖度高めだ。


その手で気持ちいいところをたくさん触ってくれて、低い声で「かわい」と言ってくれる。


「ん、ふ、く、ずみさ……」


思わず彼の名前を呼びながら、自慰にふける。恐る恐る自分で皮を剥いて、裏筋付近を扱けば、柔かった刺激が少し大きくなって興奮してくる。

先ほどよりも濡れたそこに指を増やして、くちゅくちゅとかき混ぜるように動かした。


──でもやっぱり足りない。もどかしい。


上がった息もままならないのにベッドから手を伸ばし、とあるものを探す。高級感のあるベロア素材の袋。中身は昨日、おそらく面倒だからという理由で私を可愛がることを一任された……玩具だ。久住さんが洗って、丁寧に梱包し、戻してくれたのだろう。


電源を入れた。じんわりと熱を持つそれにローションを塗った。


「……っ、あっ、くずみさん……」


ずぶずぶと自分の中に侵入させ、微弱な振動を入れる。やっと、欲しい快感が波となって押し寄せる。震盪する腰。白い快楽に呑まれていく。


朝から、私は、なんて悪い子だ。


こんな私を知れば、久住さんは嫌うだろうか。久住さんに抱かれるより、きっと、久住さんを思って自慰にふける方が多いってことに。


「──……っ、あああっ」


恋しい。明日も会いたい。また私に触って欲しい。


願うだけ虚しい。



『面倒ごとは、ナシで』


──だって一方通行なのだから。

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