第5話

“何事も体で覚える方が早い”


そんな、意味深なモットーを持つ久住さんだ。


慣れろという意味に捉えて、何をされても声を我慢した。自身ではなく、吸う玩具に潤すのを任されても、私は我慢した。


「へえ、ちゃんと我慢するんだ」


私が言う通りにしたから、久住さんは機嫌が良かった。


「……わ、私も、します、」


「あとでな」


久住さんに必要とされると嬉しい。拒絶されると死なたくなる。


ドアに手を着いておしりを突き出すように指示された。一枚隔てた向こう側で、誰かの生活音が聞こえた。モタモタしていると勝手に挿れられた。声の代わりに息をたくさん吐き出した。


話し声が聞こえると前の方も一緒に刺激されて困った。たまに我慢が出来なかった。閉ざした口の中でくぐもった喘ぎ声が出口を求めてさ迷っていた。


「良い声」


久住さんは、私の声が好きらしい。今まで褒められたことの無い私を久住さんが褒めるから、溜まりきった我慢は呆気なく決壊した。


「やだ、……っ、こえ、声、出ちゃう」


必死で手で口を抑える。


「やだよね」


呆れたように久住さんは笑い私の首筋をやわやわと擽った。背筋が震え、次の瞬間には喉の真ん中部分を圧迫されて、息が奪われる。


ゆえに、願いは叶えられる。物理的に、声が消えたからだ。


窒息死するならば、こんな感覚なのかと朦朧とする意識の中毎回思う。


久住さんの腕の中で死ねるなら幸せだと言えば、その思考が最高にウザいと言われた。


だけど毎度の如く私は不快感より勝る快楽に溺れ、白で塗りつぶされる感覚を愛おしく思ってしまう。


枢木羽仁くるるぎはに、22歳。大学四年の春。恋は盲目、という言葉は、私にあるようなものだって、自分でも分かっているのだ。


どうしようもない。


でも、私がどうしようもしたくないからこれでいい。


私の恋は盲目であり、それと同時に呪いでもある。


天の神様、仏様、どこかの偉い誰か様。


懺悔します。悪いことはもうしません。


だから、今夜も私と彼をつなぎ止めてください。

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