第7話

一度、パチンと泡が弾け、荒れた息が戻る間に、毎回現実を見る。一人きりの部屋。空っぽのベッド。冷めていく下腹部。


「また、やっちゃった……」


激しい後悔。一人でシても、虚しいだけだと思い知る。


抱きしめてもらいたいし、出来ればもう少しお話もしたかった。結局久住さんと一緒にいると、胸がいっぱいで、話すよりも眺める方が多くなっちゃう。


でもいいの。久住さんと会うと、目から栄養を貰うから、私は元気なのだ。


自分の処理をして、名残惜しいけれどベッドから起き上がる。


久住さんと別れた次の朝、まず私はキッチンのシンクに移動する。久住さんはコーヒーを朝食にする人だ。出来れば私がバリスタの資格を取り、厳選したお豆を挽いて毎回最高の一杯で一日を迎えて欲しいのだけど私はバリスタでもなく朝も弱いのでモーニングコーヒーを提供したことは無い。


だから私の家には久住さん専用の、インスタントのドリップコーヒーがある。毎回、美味しそうなコーヒーを見つけて久住さんに提供するのが私の楽しみだ。


久住さんが私の家に泊まる時は、マグカップにそれを入れ、電子ケトルでお湯を沸かすだけの状態にしている。


昨日も一応準備していたのだけど、シンクにはしっかりとマグカップが置かれていたので私はインスタントな幸せに浸る。


洗わないのが久住さんらしい。洗ってしまえば痕跡がなくなる。ごちそうさまの隠語と受け取れるからだ。


冷蔵庫を開けると、昨日作りすぎた夜ご飯がきちんと並んでいた。そういえば、食べる、及び食べてもらう時間もなかった。


「(……お弁当にしよう)」


結果として久住さんと会えたのだから最低は間逃れたものの、張り切って作ったご飯を食べないで終わるのは、昨日の私があまりに可哀想だ。


お弁当用に仕分けて学校の準備を整える。残りは朝ごはんにするとしても随分と余るので、この分だと夜ご飯も昨日の残りである。


作りすぎだ。昨夜の私、あらゆる交感神経が働いて、ドーパミンが垂れ流しだったに違いない。


仕方ないもん。だって、月に一度、久住さんに会える日だったんだもん。


シルバーのトレイに朝ごはんを乗せて、テーブルに置いた。そして私は気づく。



〈次はちゃんと家に居なよ〉



傲慢で横暴な王子様の書置きに。


殴り書きだろうが、私のルーズリーフの端だろうが、その瞬間に、私にとっては宝物と化す。


すぐさま写真に収め、メッセージを打つ。



〈ちゃんと良い子で待ってます!〉



返信は期待しない。届くだけで幸せだ。


──だから、また、連絡ください。


この辺は心に押し込めて、送信ボタンを押した。


久住さんのおかげで、今日はとっても良い日になりそうだ。





「あ〜……その様子じゃ、彼氏と会えたってわけね」


「ふふふ、無事、会えました〜」


お昼休み、大学にて私は無事に宝良ちゃんと会い、昨日の顛末を話せた。顛末と言っても、「会えた」って、一言なのだけど、それでも私は満足だ。


「良かった良かった、別れ話した?」


「全く。むしろ、愛が深まった」


「へー」


「別れるんですか?って聞いたら、別れるわけないだろって」


「ほー」


「ちゃんと、次会う約束もくれたし」


「ふーん」


「また1ヶ月、頑張れそう!」


「盲目もここまでくると清々しいわね」


「ありがとう!」


新人脚色賞が取れそうなほどかなり贔屓目に話したけれど、真実は久住さんと私しかしらないので、セーフということで、許して欲しい。

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