第29話

「はい!花先輩!!」

手に手を取って喜ぶ花と一子。

一子と呼ばれる女生徒に士竜は一人、小首をかしげる。

…どこかで聞いたような…。


「花先輩!マリ先生が特別にあんみつ作ったって言ってましたよ!」

「本当ーっやったー!!」


陸王は、賑やかな女生徒達を眺めながら、赤いジャムクッキーを口に運んだ。


久しぶりの味だ…うまい。



本来、浅舞とは成人の儀を迎えた男女の、国をあげての集団見合いである。



その男はごく自然に賑やかな女生徒達に歩み寄っていた。

そして、さらっと言葉を放つ。


「花さん。」

呼び掛けられた主に顔を向ける花。

「はい。」

そこには、仕官学校の男子生徒が立っていた。

「仕官学校の…確か佐田さん。どうかしましたか?」

「付き合ってくれませんか?」

「え?」

花の反応で、この状況を飲み込めていないことがすぐに伝わる。

佐田は一歩、花に近づくと微笑む。

「顔合わせの時から、可愛いなって思ってたんだ。僕と付き合って下さい。」

思わず晴子は口に手を当てた。


花の周囲にいる人たちの動きが止まり、皆の意識が花と佐田に集中する。


数秒後、言葉の意味を理解した花の顔は、驚きと共にみるみる真っ赤に染まっていった。

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