第10話

今日のような秋晴れの日は風が心地よい。

空いている窓から吹き込む風が校内を巡り、そのりを陸王達の元へ運んでくる。その風は、陸王の少し長い前髪を揺らすと吹き抜けていった。


一瞬、草原にいるような錯覚を覚えた。

龍塚のある草原を思わせる匂い…。

その中に甘い香り?


「この匂いはなんだ?龍塚の草原…」

「ん?草原?…俺にはクッキーの匂いしかしないけど。」

樹の言葉に眉をひそめる陸王だったが、言われてみれば確かに、お菓子を焼いているような匂いが漂っている。

初等科の教室についた美麗は、コンコンとノックをして引き戸をあけた。

「こんにちは。」

生徒達の視線が美麗に向けられる。

「美麗様!」

応えるように微笑むと廊下に視線を送り

「お入りになって。」

と声をかけた。

美麗に続いて入ってきた樹の姿に女生徒達の歓声があがる。

「よぉ!花、晴子!」

樹は片手を挙げ、白い歯を見せた。

「樹ー?!」

二人は教室の隅からパタパタと駆け寄る。

「かっこいいだろー。」

「うん!かっこいいよ!」

「見直した!!」

得意気にふんぞり返る樹。

花は深緑色のベストにある刺繍に指で触れてみる。

「へぇーこれが剣舞の衣装か。」

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