第6話
まさかこのタイミングでアルフレッドが出てくるなんて思っても見なかった。でも確かに、作中でもアルフレッドとアーサーは幼い頃からの友人であった。
アルフレッドの性格は基本的には無邪気な子供。だけど、不意に見せる真面目な顔だとかちょっとSめいた発言がクるのよね。
幼い頃からその端麗な顔立ちは変わらないみたい。でもまだ可愛らしさが勝ってるかな。それでも、頭が切れることには変わりないみたいだけど。
今日はそんなアルフレッド様が剣術の見学にいらしている。どこか緊張するのは確かだが、やることは変わらない。いつも通りの修行風景を見てもらおう。
―――――そうして、数分後。
「なんて言うか…地味だな。」
それはそうだろう。だって一切絵面が変わってないのだから。深く腰を落とし足腰を鍛えるあの修行しかり、鉄の棒を構え耐える修行しかり代わり映えがない。
「まあまあ、そう言わないの。」
「そうですわよ。これも必要なことですの。」
「身体づくりねぇ…。」
アルフレッドは興味がなさそうに呟く。思っていたものとは違ったのだろう。まあ剣術と言ったらどうしても派手なものを想像しがちだ。だが術と言うのは小手先の話であり、基礎がしっかりしていないとそんなものは本物の前では通用しない。私は師匠の太刀筋を見てそう感じ取った。
―――――そうして、昼までそんな時間が続いた。
「午前はこんなもんかの。」
師匠の声が響く。少し、お昼の休憩を取ったのち午後の練習が始まる。
「午後は打ち合いじゃよ。」
「…打ち合い。」
若干アルフレッドのテンションは下がっている。ついてきたことを後悔している目だ。
「まあまあ、2人の打ち合いを見ていれば解ることよ。この子らはワシが見てきたなかでも指折りの才能を持っておるからな。」
「ふーん…。」
なぁんか、舐められてない?私たち。
「アーサー…本気でいいわよ。」
「もちろん、そのつもりさ。」
昨日よりも集中する。昨日よりも重く、鋭く。
風が背中を押してくれる。ゆらり、揺らぐように近づく。相手の動きがなんとなく解る。
一方のアーサーは踏み込み力強くこちらに向かう。なんとなく、上から来ると解った。
それに合わせる。昨日と同じ真っ向からの打ち合い。だが昨日とは違う。私の剣は一方的にアーサーの剣を弾いた。
「なっ!?」
「え…?」
「…なんと…。」
その場に居た私以外の全員が驚く。
だが、アーサーも切り返しが早い。即座に体勢を立て直し、こちらに向かう。
「なるほど…本気だね。」
そう呟き、次の瞬間私の首にその突きが放たれる。速い…だけど不思議と見切れてしまう。1歩後ろに下がり様子をうかがう。昨日と同じような連撃。今の私はそんなもんじゃ止まらない。躱し、いなし、受け止め、弾く。
「ちょ、ちょっと強すぎない?」
「そりゃあ日々研鑽を積んでますもの。」
そうは言っても私のこの成長速度は異常だと思う。普通の人間の感覚ではない。日々の努力だけでは言い表せないなにかを手にしている。
「これが…アナスタシア…。」
アルフレッドが呟いているのが聞こえた。
「さて、アーサー…今度は私からいきますわよ。」
「…っ!」
アーサーは剣を握る手に力を込める。あれだと無駄に体力を消費してしまうだけだ。せっかく軽いのだから、剣はもっとしなやかに、かつ柔軟に使うべきよ。
ふわりと近づき、横薙ぎに切る。なんとか受け止めたアーサーの手は震えている。まだ、こんなもんじゃ終わらない。
その状態から繋がる流れるような連撃。攻めに攻める。アーサーは防戦一方である。
「アーサー、少し力入りすぎじゃない?」
「な、なに言って…。」
「もう少し、緊張解いてみたら?」
「急に言われたって…。」
そんなやりとりを遠目から見ているアルフレッド。
「すげぇ…アーサーが防戦一方なんて…。」
「ありゃちょっと異常じゃよ。」
「異常…?」
「アーサーも悪く無い。あれなら将来騎士団長は務まるじゃろう。じゃがそれ以上にアナスタシアの潜在能力が異常すぎる。正直あれは…既にあやつの父とまともに打ち合える程にはなっておるじゃろうな。」
「アナスタシアのってことは…。」
「シーザー·アーバスノット。10年前の大戦にてこの国、リシアンを勝利へと導いた英雄じゃよ。」
「シーザー·アーバスノット…。」
「まさか、1代で子爵まで上り詰めるとは思わなかったがな。」
「1つ…貴方はいったい誰なんです?」
「…ただの老いぼれじゃよ。」
―――――そうして、私の一撃により勝敗は決した。
「も、もう無理…。」
「勝負ありね、アーサー。」
膝をついたのはアーサーだった。
「アーサー…あれによく耐えた。お主ならこの先やっていける。あれはアナスタシアが異常なだけじゃ気にしなくてよい…。」
あれ?なんか同情じみたものになってない?
「あのおじいさんが言ってた。今のアナスタシアならシーザー様とまともに打ち合えるって。だから…もっと自信もっていいぞ。」
あれ?アルフレッドまで?
「…そうだよね。これ、僕が弱いわけじゃないよね…?」
ちょっと…やりすぎちゃったかしらね?
「しかし、アナスタシア…何で君ってそんなに強いの?」
「え、えぇと…わからないです…。」
「やはり、天才じゃろうな。お主を越える逸材…恐らく今後現れんと見て取れる。しかし、そこまで強くなってどうするのか…騎士の位でも目指してみるか…?」
「うーん…。」
少し考える。騎士の位。確かに今後地位と言うものは欲しくなってくる。だけど、アナスタシアちゃんが騎士…解釈違いね。
「しばらくは遠慮しておきますわ。」
「もったいないのう。しかしまあ、目を見ればわかる。他にやりたいことがあるんじゃろう?今はやりたいようにやればいいさ。」
師匠にさえ、野望があると言うことは見抜かれていた。だけど、それもありだろう。
「アナスタシア、1つ聞いてもいいか?」
「なんでしょう、アルフレッド様。」
「身体強化の魔法とかは使わないのか?」
「一応出来なくもないですが…あんまりやる意味がなくて…。」
「やる意味がないと言うのは?」
「過去に1度、身体強化を施して素振りをしてみたことがあるのですが…どうにも体に合わなくてですね。そこから使うことはなくなりましたかね。」
「合う合わないがあるのか…だけど、うまいこと使えばもっと強くなるって思うぞ?」
「そうですね…こういった修行はあくまでも剣術ですので使いませんが、少しそれも考えてみます!」
確かに、身体強化を施したアルフレッドの剣は受けれる自信がない。師匠の剣もそうだ。まだまだ学ぶべきことが私にはたくさんあるみたいだ。
―――――その日の夜のこと。いつものように私は魔力を身体中に回す訓練をしていた。
ずいぶんとなれてきたもので、ただの回復くらいなら即座に治癒できるようになっていた。にしても、アルフレッドもなかなか博識であった。作中でも魔法に関しては秀でた知識を持っていたが現実はそれ以上だった。かなりマニアックな話もできたし。なかなか楽しかったな。
にしても…やっぱり2人とも美形過ぎる。私こんなに幸せでいいのかしら?いや、いいのだ。どうせ私はこのままいくと破滅することが決定している。なら楽しむのは今のうち。そのうちこの国をひっくり返してやるんだから。
そんなことを思っていたとき。不意に扉からノックの音が聞こえた。自分の世界から引き戻される。
「誰?」
「…アンです。アナスタシア様。」
アン?この時間になんのようかしら。
「どうぞ、入っていいわよ?」
部屋に入ってきたアンは神妙な面持ちで、かつ大事そうに箱を抱えていた。
「アナスタシア様…大切なお話があります。」
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