第6話 家族
浩太郎は何日間寝ていただろう。
ふと、目が覚めると、そこには、美穂、浩輝、美和が座っていた。
「パパ、やっと目が覚めたのね。よかったー。一時は出血多量で大変だったのよ」
俺に似ていつも夜遊びしている美和が第一声を放った。
「俺も会社に電話があってびっくりしたよ。でも、親父らしいよな。女に刺されるなんて。今まで刺されなかった方が奇跡だよ」
美穂は黙って泣いている。
「考えてみたら家族四人がそろったの初めてかもね」
「うちはいつも親父不在だったからな」
「幼稚舎の時、他の同級生がうらやましかったな。パパがいて」
「ほとんど、母子家庭だったようなものだったな」
浩輝、美和には本当に父親として愛情を注いでやれなかった。
父親失格だ。
そして、女遊びしてばかりいて、そのたび、美穂は陰で今のように泣いていたのだろう。
自業自得だ。
幼稚舎から慶應に行って一流の商社に入社して調子に乗っていた。
本当に罰があたったんだ。
「ごめんな」
みんな黙っている。
「そういえば、パパが寝ている間に、今回の件でなんでも貴金属部の部長は下りてもらうって加藤さんが言いに来たよ。なんでも、経理部に異動になるらしい」
左遷か。
定年を前にして自業自得だ。
これからの10年をどう過ごしていけばいいのだろうか?
「ちょっと、浩輝と美和待合室に行っててくれる?」
「ママ」
「パパとお話があるの」
美穂は離婚を切り出すのか?
当然だろう。
散々なかせてきてこのざまだ。
浩輝と美和が出ていくと美穂は語りだした。
「パパが浮気をしだして、わたし、将来は刺繍教室を開いて、パパから逃れて離婚しようと決めてたの」
そうだよな。
その通り。
「でも、逃げてたのよね。海外赴任に着いていかなかったのも、知らない土地で、また浮気されたら、浩輝や美和を育てていく自信もなかったし、何よりもわたし女として自信がなかったのよ」
その通りだとも。
「わたしね。高校の時、堕胎してるの」
「え?」
「早稲田の大学生だったんだけれども、三か月で捨てられたの」
「それ以来、男の人恐怖症になってしまってね。両親はわたしに男の子から電話がかかってくると居留守を使ったわ」
「だから、パパがプロポーズしてくれた時、これで捨てられないと思った。とっても嬉しかった。でも、パパの浮気の原因もパパが悪いだけじゃないのよね。わたしにも魅力がなかったのよ」
「二人の子供も大きくなったことだし、わたしゴルフしようと思ったの。共通の趣味見つけて、二人で残りの人生を静かに過ごしましょう」
「美穂、許してくれるのか」
「許すも何も私にも非があったわけだから」
「美穂・・・。すまん」
「パパ」
窓からは金色の銀杏の葉がゆらゆらと舞っていた。
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