第5話 妊娠
「今日は日曜の昼間から喫茶店なんて珍しいな。なんかあったのか?」
「できたのよ」
「何が?」
「赤ちゃん」
「嘘だろう?だってお前50歳だろう?まだ生理あったのか?」
「わたしだって、びっくりよ。子供のいない人生で過ごそうと思ってたんだから」
「おろすだろう?」
「産むわ」
「この年で産んだら、障害児しか生まれないぞ」
「それでもいい。産みたい」
「俺は認知しない」
「相変わらず冷淡な男なのね」
「遊びのはずだっただろう?俺たちの関係は」
「あなたは遊びのつもりだったかもしれない。でも、わたしは奥さんの愚痴を聞くたびに胸が痛んだ。土曜日と日曜日に会えないのがすごく寂しかった」
「俺は、本気の不倫はしたくないんだ。別れよう」
「ひどい男ね。そういうと思った」
そういうと、恭子はポケットからナイフをさっと出した。
「よせ!何を考えている!気を確かにしろ!」
「キャー!」
遠くから、悲鳴が聞こえてきた。
浩太郎はわき腹に鈍痛を感じ、記憶が薄らいでいった。
「我妻さん、今日はショッピングに付き合ってくださってありがとうございます。これで、少しはおしゃれな講師としてやっていく自信がつけそうです」
美穂は自分が稼いだお金で好きなだけ銀座でショッピングができてワクワクしていた。
「美穂さん、少し休みませんか?」
「喫茶店?」
「違う意味の休みですよ」
「え?」
美穂はどうしていいかわからなかった。
女としての喜びを感じたのはいつ以来だろう?
もう、おんなとして終わっている。
わたしは45歳だ。
四捨五入したらアラフィフだ。
こんな15歳若い男にちやほやされて浮かれていてもいつかは捨てられる。
「今日は帰りましょう」
「帰さない。明日まで一緒にいたい」
我妻は、電柱柱の影に美穂の手を引っ張ってキスをした。
美穂は体が熱くなった。
いつ以来だろう。
男とキスをするのは。
「行きましょう」
「家に帰らなければ」
「ご主人さんに愛されてないんでしょう?たくさんのお客さんを見てる僕からして一目瞭然ですよ。行きましょう」
我妻と美穂は有楽町方面に歩き出した。
すると、美穂のスマホが鳴った。
「ごめんなさい。もしもし?」
「お母さん!」
「美和、どうしたの?昨日も家に帰ってこなかったじゃないの。心配して・・」
「それどころじゃないの!パパがパパが女の人に刺されて重傷なの!」
「え?場所はどこ?」
「広尾の赤十字病院。早く来て!」
美穂はスマホを持つ手が震えていた。
浩太郎が刺された?
「どうしたんですか?」
「ごめんなさい。やっぱり、今日は無理です」
そう我妻に告げると美穂は急いで地下鉄の階段を下りて行った。
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