(魔鏡)

第26話

『羨ましい…。羨ましい…。私よりも多くの人に囲まれた彼女が…。皆に愛されている彼女が―。』




 長い時が流れ文明が発展しても、人間はふとした時に古くから伝えられている話が過る事がある。例えば『盆を過ぎた後は水に入るな。』というのも昔からの言い伝え。そして『落ちている鏡を拾ってはならない。』というのも言い伝えの1つだ。いつの時代から生まれ伝えられているのかは分からない。その明確な理由も不明だ。だが、一部の人達の間でこんな噂も流れていた。『落ちている鏡は魔鏡になった物だから拾ってはいけないんだよ。鏡の中に引きずり込まれてしまうから。』という噂がだ。真意等は不明だが実際に拾って持つ事は良くないだろう。魔鏡であってもなくても鏡という物は元々、神器の1つとして扱わられるほどに強い力を宿した代物なのだから。それにもし良くない力が宿っていたら何が起きるか分からないのだから…。




 かつて雨を降らせる力を宿した存在…『雨燕』に気に入られた者がいた。『薬師村』の長の孫娘の咲の従妹である『平井 美織(ひらい みおり)』だ。彼女は咲と違って父子家庭で少し大変な環境で育ったが、その分力強く育った。何より大変な環境で育った事で心優しい少女に育ったのだろう。知らなかったとはいえ彼女は『雨燕』の『若様』を助けてしまう。それにより一時は異界に取り込まれてしまったが、咲を通じて奈瑠が助けてくれたからか。美織は無事に帰還。元の生活に戻る事が出来た。だが、『雨燕』の『若様』…『五月雨(さみだれ)』は美織に対して未練のようなものを残していたらしい。その証拠に自分の力を宿させた羽をお守りとして彼女に渡すほどだ。それだけ美織は人だけでなく『人と異なる存在』…妖からも好かれる存在だった。


 そんな美織には1人の友人がいた。同じ学校に通う同級生の『西島 才華(にしじま さいか)』だ。彼女は美織とは違う雰囲気を持つ少女だったが、華やかさを兼ね備えた美しい娘だったからだろう。彼女に想いを寄せる者達は多かった。

 だが、美しくても少し派手な見た目をしていたからか。誰も彼女に対し好意を伝えようとはしてこない。そればかりか近寄り難いと感じているらしい。好意どころか日常的な会話ぐらいしか誰も才華に声をかけてはこなかった。

 一方の才華は周囲のその態度のせいだろう。1人で過ごす事が多かった。特に彼女は母親が奔放な性格で多くの男性達と会い続けていたからか。学校以外でも大半は1人で過ごしていた。それは小学生の頃からずっと続き慣れているとはいえ、当然心の何処かに寂しさを感じていたようだ。ふとした時に負の感情に押し潰されそうになり、思考も益々重苦しいものになっていった。

 すると負の感情が芽生え続けているからだろう。才華は徐々に周囲を見る事が出来なくなっていく。それは自分に好意を向けてくれている皆が見えなくなるだけではない。彼女を小学生の時から知り、何かと気にかけてくれた存在…いわば『友人』とも呼べる美織とも段々と距離を置いてしまうほどだ。むしろ負の感情は着実に悪化。遂には憎悪のような形に変わっていく。明らかに一方的な逆恨みであるというのに…。

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