第25話

そうして宏太が両親の事で何とか落ち着いた頃。奈瑠はある方向を見つめていた。『灯鬼』が最後に自分の前に現われ封印された場所、別の空間がある方向だ。その表情は仕方がなかったとはいえ自分で初めての『友達』を消してしまった事を責めているのか。浮かない表情だった。

 そんな奈瑠に『ある者』が近付いてくる。その立場から『灯鬼』の正体を知っていた奈瑠の『祖母』だ。だが、『祖母』は過去に奈瑠の初めての『友達』を封印したり、現在でも影響を与えてしまった事を自覚。同時に後ろめたさもあったらしい。奈瑠の様子を伺う姿はためらいが見えている。すると『祖母』が自分に声をかける事に戸惑っているのに気が付いていたのだろう。徐に口を開いた。

「…別に良いわよ。変に気を遣おうとしなくって。私なりにあなたやお父さん、それにお母さんの気持ちは理解しているつもりだから…。」

「奈瑠…。」

「それに…今回の事で彼…『灯鬼』との思い出を取り戻す事が出来たし、何より彼と仲直りも出来た。…これ以上、良い事はないでしょう?新しい『友達』に伝えたい事も改めて言えたしね。」

「…そうか。」

『祖母』が気にしている事を取り払うように、奈瑠は言葉だけでなく表情も明るめにして語り続ける。その様子に『祖母』は奈瑠が自分に対して気遣ってくれた事。何より答える様子から奈瑠が本心を語っている事が分かったからだろう。安心したように僅かに笑みを浮かべながら呟いたのだった。




 奈瑠が『祖母』を安心させる事に成功した頃。『薬師村』や周辺集落から遠く離れた場所…封印という形で飛ばした先で、『灯鬼』は1人で『ある物』を見つめながら過ごしていた。それは彼の『友達』…奈瑠を最後に見かけた場所に似た形をした山だ。すると場所が違っても、そこに流れる空気等が似ていたからか。彼は奈瑠の事を思い出しているらしく、僅かに切なげな様子で山を見つめていた。

 だが、その瞳には人々を『神隠し』に遭わせた時のような様子…怪しい光は灯っていない。むしろ何かで満たされたような、清々しさも感じられる雰囲気を漂わせていた。長い間封印されていても、ずっと思い続けていた奈瑠に再会出来た事。自分の想いを完全に拒絶はせず受け入れてくれただけでなく、記憶が戻った後に『友達』だと認めてくれたのだから…。

(本当にありがとう…。もう過去の事になってしまったとはいえ『友達』と言ってくれて…。とても嬉しかったよ。この場所に大人しく留まって、もう『神隠し』を行おうと思わないくらいには…。)

この場所に連れて来られる直前の事を思い出しながら、そんな事を胸の中で呟く『灯鬼』。更には奈瑠との事を思い出していた為に、必然的に宏太と優子の姿も過ったのか。彼は徐に呟いた。

「…ちゃんと大切にしてくれよ。彼女は…奈瑠は俺にとって初めての『友達』で…『大切な人』なんだ。大切にしてくれなくっちゃ…どうなっても知らないから。」

元々、人間の事があまり好きではなく、むしろ『神隠し』の対象としか考えていない性格だからだろう。宏太達の事も当然信じていないらしく、彼は何かを行ってしまいそうな恐ろしい言葉を口にしている。だが、周囲には彼以外に誰もいなかったからか。その禍々しさも感じられる彼の姿とは違い、周囲は妙に静まり返っていた―。

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