第24話

その翌日。『薬師村』や周辺集落に住む一部の住民達に起きていた『神隠し』が解決し、既に数日が経過しているからか。休んでいた生徒達は登校を再開。大人達も本来の仕事を始めるようになる。それらの様子はほぼ以前の状態に戻っているからだろう。『薬師村』の村長の孫娘で周辺集落の事にも気にかけていた咲は安堵の息を漏らす。何より…。

「今日は特に機嫌が良さそうですわね?柳生君。」

「えっ…?」

「あっ、いえ…。少し前に色々と悩んでいたでしょう?それがこの数日間は穏やかな様子になっている。それも今日は特に…。だから気になってしまったのです。もしかして『あの事』が解決出来たのかもしれないって思ったから…。」

「桜田門さん…。」

「すみません。余計なお世話でしたわよね?でも柳生君は私にとって大切な人なのです。『薬師村』の住民であるし、その…それ以上に…。」

少し前とは違って宏太が穏やかな様子に変わっていた。それに気が付いていた事を告げる咲。更に告げる言葉の中には、宏太に対して特別な想いを抱き続けている事も含ませる。少しでも彼に自分の想いが伝わるように願いながら…。


 だが、元々『その方面』に鈍い宏太だ。特に彼は家族や奈瑠の事で常に気を張っていて、周囲の感情に鈍くなり易いからだろう。咲が意味深な言葉を告げてきても、当然のように相手の『特別な想い』を察してはいないらしい。その証拠に告げてきた咲を見つめながら首を傾げつつ告げた。

「…?えっと…。少し言っている事がよく分からないところもありますけど…。でも桜田門さんが言っている事は間違いでもありませんよ。最近…いえ、『神隠し』から帰ってきた後ですね。両親の様子が少し変わっていた事に気が付いたんです。それが何だか不思議に感じて尋ねてみたら、2人は不思議な夢を見たらしくて…。」

「夢…?」

「ええ。その夢は俺は本人達じゃないから上手く説明出来ないんですけど…。でも夢をきっかけに両親は認めようとしているんだそうです。桂川さんの事を…。」

「そう…。」

「だから…何だか嬉しくって。だって…自分達にとっての『友達』が少しでも周囲に認められたんですから。」

「…そう、ですか。良かったですわね。」

咲からの言葉に不思議そうにしながらも、両親の変化について語り続ける宏太。その姿はとても嬉しそうで、かなり幸せそうにも見えたからだろう。宏太への想いが本人に伝わらない事に苦しみは感じていたものの、その事を自分から打ち明けようとはしない。むしろ嬉しそうな彼に同調するように微笑みながら答えるのだった。

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