第23話
その変化に最初に気が付いたのは宏太と優子だった。自分の両親が奈瑠に対し否定的な言葉を口にしなくなったからだ。以前…『神隠し』に遭う直前に自分達へ向かって一方的に奈瑠の事を否定していたというのにだ。確かに普通ならば宏太や優子の話を出さなければ、その話題にはならないだろう。だが、宏太と優子の家では色々とあったからか。優子が戻ってきてからは時間が出来れば会話をし、ある程度の結論が出るまでは続けるようにしていた。だからこそ『神隠し』に遭うまで奈瑠に対する接し方についての結論が出ないまま、そして解放された後も話が全く出ない現状は驚きでもあったのだ。それでも改めて自分達にとって『友達』と思えた奈瑠の事を、否定してくる言葉を聞きたくなかったからか。話を切り出す事はなかなか出来なかった。
だが、2人の親として子供達の複雑な想いを察していたのか。ただ単に奈瑠の事で話をしたかったのか。戻ってきて3日後…ようやく日常が戻ってきた事を改めて実感した頃に、両親は宏太と優子を呼び止める。そして母の方から徐に口を開いた。
「私達がこの家にまた帰ってこられた少し前だったかしら。その前にね、急に意識が遠ざかってしまって…戻ってくるまでの記憶は曖昧になってしまったわ。だけどね…その曖昧になっている間に夢を見たの。」
「…夢?」
「ええ。といっても、よく分からない内容だったんだけどね。何となく1人の女の子が『怖いもの』に立ち向かうような内容だった気がするわ。それも女の子は…あなた達がずっと気にしている『桂川 奈瑠』に似ていたの。夢の中だし、何となくそう感じるだけなんだけどね。」
「…っ。」
「ちなみに私だけじゃないわ。お父さんも見たのよ。…ね?あなた。」
「ああ…そうだな。とても勇敢な女の子が出てきていたよ。」
「そう、なんだ…。」
両親の口から不思議な夢の話を聞かされた事。何より夢の内容が自分達が見たものと似ているような感覚になったからだろう。2人は上手く言葉を発する事が出来ない。それでも両親は特に気にはしていないらしい。その証拠に2人を見ながら告げた。
「その夢の影響なのかもしれないけれど…。最近、桂川さんに対して自分達の態度は良くないんじゃないかって思って…。少し改めようとも思っているの。」
「そうなの…?」
「ええ。といっても、急には難しいとは思うんだけどね。まだ彼女に対して『怖い』と思っちゃっているから。それでも…少しずつ変わっていこうとは思っているわ。だって…あなた達にとって彼女…『桂川 奈瑠』さんは大切な友達なのでしょう?」
「…っ。お母、さん…。」
「大切なお前達の想いを拒絶したくない。親はそういうものだからな。」
「父、さん…。」
両親なりに奈瑠の存在を受け入れようとしてくれている事。それも理由は自分達の為である事を知ったからだろう。聞いた瞬間、胸の中が温かくなったのを2人は自覚する。そして温かいものが芽生えたのを自覚した事で、2人の表情は自然と穏やかになっていったのだった。
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