第21話
その後、異空間を作り出してもいた『灯鬼』が消えた影響か。夜のように暗く霧のようなものまで漂っていた山中の風景が徐々に変化。ふと気が付くと宏太達は『薬師村』近くの雑木林の中に立っていた。その場所は通勤や他の集落に向かう際に通る場所、つまりは自分達にとって馴染みがある所だ。それに気が付いた事で宏太と優子は驚きながらも安心。思わず安堵の息も漏らしたのだが…。
「…。」
「あの…大丈夫?ですか。」
「…。」
「奈瑠、お姉ちゃん…?」
一安心する自分達の傍に『灯鬼』がいた場所を見つめながら立ち尽くす奈瑠がいたからか。宏太と優子は心配そうに声をかける。だが、当の奈瑠は答えず無言のまま『灯鬼』がいた場所を見つめ続けていた。
それでも少しは気持ちの整理が出来たのか。小さく息を漏らしたかと思うと、こんな事を呟き始めた。
「初めて出来た『友達』…って存在だったの、彼は。妖が…『人と異なる存在』が『友達』だと色々と大変だって母達は分かっていたみたいだから…記憶を消して結界も張って…距離を置かせようと思ったみたいだけどね。」
「…。」
「そして実際、今の今まで私の記憶は封印されていたから…彼の事は忘れていたわ。仕方がない事なんでしょうけど…酷い娘よね、私って…。」
「奈瑠、さん…。」
周囲の考えが間違っていないと分かってはいても、『灯鬼』を忘れていた事を後悔しているのか。呟く彼女の表情は自嘲の色が見えている。そして自分の事を心配そうに見ながら、話しかけようとする2人に向かって更に続けた。
「そんな風に思っちゃうような娘でもあるの。『人と異なる存在』…妖を完全に拒絶する事が出来ない。そもそも…この体自体に『人間』以外の血も流れている。拒絶する時点で間違っているのよ。そして…そんな存在である私は必然的に妖と関わってしまって、周囲も巻き込んでしまう事が多いの。どれだけ離れようと思ってもね。」
「奈瑠お姉ちゃん…。」
自分の事を『恐ろしい存在』である事を示すようにも告げてくる奈瑠に、優子は切なげな声を漏らしてしまう。だが、そんな様子に気が付きながらも奈瑠はこんな事を告げた。
「だから…正直言って私は離れるべきなんだと思う。あなた達の前から…ね。」
「…っ。」
「離れなければ…きっとあなた達や周囲の人を巻き込む事になると思う。何度もね。いくら私でも…それは良い気分にならないの。どんな形でも『友達』を苦しめる事になるから…。」
「そんな…!」
話を聞き続けていく内に奈瑠が自分達の所から離れていこうとしているのが分かったのだろう。2人は思わず息を呑む。特に奈瑠に懐いている優子は別れを予感してしまったのか。悲しみを前面に示すように涙を滲ませて悲痛な声も漏らしてしまった。
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