第20話

すると奈瑠が狐火で術を壊してきた事。それと共に標的の2人が自分の存在に気が付いたのが分かったからだろう。悔しさを感じたらしい『灯鬼』は表情を歪める。更に彼は感情が爆発してしまったのか。荒々しい声を上げた。

『クソッ!ヨウヤクコイツラヲ消ス事ガ出来ルト思ッタノニ!俺ハ、俺ハ!オ前トズット『友達』デイタカッタダケナノニ!ソウスレバ…!ソウスレバ…寂シクナクナルカラ…。アノ頃二戻レルト思ッタノニ…。』

「…。」

最初は荒々しい声であったが、話している内に怒りが静まっていったらしい。その声は切なげなものに変わっていく。そして奈瑠の視線を感じながらも再び術を発動する気力を失ってしまったのだろう。彼は俯いてしまった。

 一方の奈瑠は俯く『灯鬼』を無言で見つめる。だが、ある決意を固めていたからか。彼に近付くと徐に口を開いた。

「…あなたが私に何を思っていても関係ない。あなたは私の『友達』を悲しませ傷付けた。だから消さなくちゃいけないの。難しいと思うけど理解して欲しいわ。」

『…ッ。』

「だけど…全く感謝していないわけでもないの。あなたは…間違いなく私の初めて出来た…『友達』だったから…。」

『…ッ!奈、瑠…。』

奈瑠が自分の事を拒絶する素振りしか見せてこなかった為に『灯鬼』は感情を爆発。力を暴走させ、今回の一連の『神隠し』を行ってしまった。だが、元々の彼の望みは奈瑠に自分が『友達』だと認めて貰う事だった。現に彼が強い妖力を持っていると気が付いた事。何より『妖よりも人間との関わりを強めさせたい』と『母親』達が考えた事で彼に関する記憶は封印され結界も張られた。

だが、『灯鬼』が直接奈瑠に危害を加えたり追い込んだりした事はなく、むしろ彼女と過ごす日々を楽しんでいた。その感情は力を暴走させてしまった現在でも自分の中に残っているらしい。表面上の彼は奈瑠に危害を加えようとしていたが、実際はほとんど攻撃をしてこなかった。そればかりか奈瑠を否定する者達を消す事に力の大半を使っていた。彼女の事を守りたかったのだから…。




 その自分の想いに奈瑠がようやく気が付いてくれた事を悟ったのだろう。『灯鬼』の邪気は徐々に薄まっていく。そして薄まった事で同時に彼の本来の性格や思考が戻ってきたらしい。それを表すように再び宏太と優子に襲いかかろうとしていた黒い手が次々と消滅していく。更には容姿も角があった恐ろしいものから、攻撃を開始させる前の人間の少年のような姿に戻ったのだった。

 すると元の姿に戻れるほどに『灯鬼』が落ち着いた事が分かったからだろう。奈瑠は『灯鬼』の体に触れる。そして彼を見ながら告げた。

「じゃあ…今から『人間』達を消した罪を償う形として、あなたを消させて貰うわ。…良いわね?」

『ああ…。分かった。』

気持ちが落ち着いた事で怒りも何とか消えたからか。『灯鬼』は頷く。そして両手で複数の真珠のような物を生み出すと、奈瑠の狐火を受け止めたからか。その体は徐々に消えていく。だが、言葉だけでも奈瑠から自分の事を『友達』と認めて貰えたからだろう。消えていく時の姿は僅かに笑みを浮かべるほどに穏やかなものであった。

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