第17話

そんな奈瑠の様子を見ていた彼は、彼女が自分との記憶を取り戻した事に気が付いたのだろう。直前まで浮かべていた笑みを更に深める。それだけでなく笑みを浮かべたまま告げた。

『ああ…。ようやく思い出してくれたみたいだね。君の初めての『友達』が俺だって事を…。どう?名前も思い出してくれた?』

「…『灯鬼(とうき)』。」

『そうだよ。どうやら全部思い出してくれたみたいだね。嬉しいよ。君の初めての『友達』が俺だったみたいに俺も君が初めての『友達』なんだ。…だからさ。これからも俺の『友達』でいてくれるよね?ずっと仲良く…してくれるよね?』

「…。」

自分の名や記憶を思い出してくれた事がよほど嬉しかったのか。『灯鬼』は益々笑みを深めていく。そして何やら誘うように奈瑠に手を差し出すのだった。




 『灯鬼』が奈瑠と接触し、全てを思い出していた頃。宏太は優子と共に歩いていた。奈瑠の様子が妙に気になってしまったからだ。常日頃よりも自分達の事を避けようとしていた姿が…。

「何があったんだろうね?奈瑠お姉ちゃん。ねぇ?宏太。」

「…。」

「宏太?」

「っ!あっ、はい…。そう、ですね…。何があったんでしょうか?」

奈瑠の事を強く慕っている優子は相当気になっているのだろう。その想いを口にしながら宏太に尋ねてくる。だが、当の宏太は優子の問いかけに上手く答える事が出来なかった。別れる直前の奈瑠の姿…自分達の事を何やら避けようとしていた彼女の様子を見て、頭の中に黒い霧のようなものが渦巻く感覚になっていたのだから…。

(おかしい…。彼女が俺達と距離を置こうとしていたのは、今だけじゃないのに…。)

自分の心の中が変化している事に薄々気が付いていた宏太だったが、それに対し思考は追い付いていないらしい。それを表すように足は動き続けていたが、表情は何かを考え込むようなものを浮かべていた。


 だが、考え込みながら歩き続けていたからか。奈瑠と関わるようになって無意識に危うい存在になっていたのか。再び自宅の方面に歩いていたはずの2人は違う空間へと足を踏み入れてしまう。それも気が付いた時には相当入り込んでしまったらしく、妙に静かで薄暗い山中のような場所に辿り着く。すると周囲の様子に戸惑っていたが、2人の瞳にある光景が映り込んだからだろう。思わず足を止めてしまう。1人の少年と対峙する奈瑠の姿に…。

「奈瑠、お姉ちゃん…?」

「何の話をしているんだろう…。」

薄暗い周囲とは違って奈瑠と少年のいる所だけは妙に明るくて目視する事が出来る。それはよく考えれば異様な状態であったが、見えた光景に不思議と目が奪われてしまったらしい。自分達の背後にいつの間にか黒い影が現れているのにも気が付かず、そればかりか全く動こうとはしなかった。

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