第9話

その日の夜遅く。両親に改めて自分達の想いを告げる事が出来たからだろう。昨晩とは違い宏太と優子は気分が軽くなったらしく、穏やかに眠れるようになっていた。だが、そんな2人とは違い両親の表情は僅かに浮かない。様々な事を経てようやく揃った大切な子供達が『桂川 奈瑠』という危険さを匂わせる人物と相変わらず関わる事を望んできたのだから…。

「2人の気持ちは分かっているつもりだ。人の好き嫌いを決めてはならない事も、これからの事を考えたら多くの人と関わった方が良い事もな。だが…。」

「ええ…。分かっているわ、あなた。私達は2人の親だから…。今も心配で堪らないの。…どうすれば良いんでしょうね?私達は…。」

互いに帰りが早い時に夫婦で密かに行われる晩酌。この時間は不定期の開催ではあるが、互いの意見を交換し合うには貴重で大切なものであった。そして普段ならばこの時間は穏やかな雰囲気に包まれているが、今日は話の内容が内容であったからだろう。いつもとは違い重苦しい空気が室内に漂い続けている。その重苦しい空気は思考も自然と奪っているのか。結局、奈瑠との付き合い方について両親は答えに辿り着く事が出来なかった。


 そんな重苦しい空気が『柳生家』から溢れていた頃。他の家々からも重苦しい空気が溢れていく。それも漂わせている家は奈瑠の事を知る者が住む所で、更には彼女の存在に対して疑念等を抱く者がいる場所ばかりだ。その想いは胸の中に隠していてもかなり深い闇を含ませたものだったらしく漂う空気は重苦しい。そして漂う空気は何故か途中から黒い霧のような姿に変化。同じように漆黒色の空へと昇っていった。




 翌日。いつものように宏太と優子は起床。前日に自分達の想いを伝える事が出来た達成感か。朝食を摂る様子や自宅から出る時の足取りは軽やかなものになっている。むしろ行動だけでなく気分もすっかり良くなっていたのだろう。2人は気が付く事が出来なかった。自分達を見送ってくれた両親が疲れた様子であった事。そればかりか心なしか存在感のようなものが薄まっていた事に…。


 それから少し時間は経過して。昨日とは違って宏太と優子は軽やかな足取りで学校へと辿り着く。そして校内でそれぞれ友人達とも会い、意気揚々と教室へと入っていった。

 だが、それぞれの教室に入った2人は戸惑う事になる。一部の生徒達が来ておらず空席が出来ていたのだ。その光景は元々生徒数が3つの学年合わせて20人程度しかない環境であった為、妙に目立ち気になってしまう。それでも登校していた他の生徒や教師達が詳細をあまり語らなかったからだろう。それぞれの教室で2人は疑問を抱きながらも、2人は上手く問う事が出来なかった。

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