第8話
それから更に時間は経過して。咲から背中を押された事もあってか。奈瑠と関わる事に対する恐怖心や戸惑いは少しだけ弱くなっていったのだろう。奈瑠に対する宏太の距離は自然と元に戻っていく。その事は奈瑠本人も気が付いたらしい。再び昨日までの態度に戻った彼の変化に思わず眉間にシワを寄せてしまう。だが、奈瑠の方も彼の事を『友達』と思い、不快にも感じなかったからか。戸惑いながらもやはり受け入れてしまう。それは同時に宏太を不可思議な事と関わる機会を増やす事になると分かってはいたが、奈瑠は自分で止める事が出来ない。その考えよりも宏太の態度が戻ってくれた事に密かな喜びを感じていたから…。
そうして咲からの助言もあり奈瑠に対する態度を戻す事が出来た宏太。朝とは違い気分が少し浮上するようになったからか。その表情は僅かでも晴れやかなものになっている。更に宏太の気分を浮上させる理由は咲のおかげだけではなかった。既に自分よりも先に帰宅していた優子から、こんな言葉を聞いたのだから…。
「あのね、宏太。私やっぱり奈瑠お姉ちゃんと、これからも関わりたいって思うんだ。ううん。誰が何て言おうと奈瑠お姉ちゃんと一緒に過ごすの。…稲葉君達も少し同じ気持ちなんだって。」
「そう、なんですか?」
「うん。今日学校に行ったら昨日の事を謝ってくれたの。それだけじゃなくて奈瑠お姉ちゃんに感謝もしてくれた。だから…何だか嬉しかった。大好きな奈瑠お姉ちゃんの事を他の『友達』が認めてくれたから。…宏太もそう思わない?」
「そう、ですね…。俺も何だか嬉しいです。」
嬉しそうに学校での健介達とのやり取りを語る優子。その表情があまりにも幸せそうに見えた事。何より優子と同様に奈瑠の事が大切だと思い出し、その相手が少しでも周囲に認められた事に喜びを感じたからだろう。宏太は自然と頷く。そして優子と同じ気持ちである事を表すように表情を緩ませるのだった。
その日の夜。昨晩の出来事を気にしていたのか。宏太と優子の両親は昨日に続いて早めに帰宅してくる。だが、親であっても自分達の子供に対し上手く話を切り出す事が出来ないのか。常以上に黙り込んでいる。すると黙り込んだ両親の姿を見かねたらしい。宏太は徐に口を開いた。
「あの…!父さんと母さんに話?があるんだ。」
「…話?」
「まぁ…。急に改まって何かしら?」
普段はあまり自分から意見を言わない宏太から言葉が発せられたからか。両親は顔を上げる。そんな2人の言葉に促されるように、宏太は奈瑠との関わり方について告げたのだった。
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